2ntブログ

ひまわり

都心からたった30分。
なのに・・・そこは油蝉の鳴き声が騒音のように響きわたっていた。
木立の幹に隠れるように擬態する無数の蝉の、声だけの存在感がただでさえ暑い気温を2℃ほど押し上げた様な気がした。
何か目的があったわけではない。
ふいに訪れたただ一日のお休みをエアコンの効いた自宅に籠って過ごすのが嫌になったから、カメラだけを手に外出を決め込んだだけだった。

なんということもない住宅街の中にある高校の塀を超えたそこに、それはあった。

P1017047.jpg


一面のひまわり。
わたしですら見上げるほどに丈高く伸びた姿はまるで自然の要塞だった。

P1017056.jpg


息苦しいほどの緑の薫り。
あんなに煩かった蝉の音すら遠ざかっているような気がする。
替わりにまとわりつくのはミツバチの羽音。
よく見るときちんと整地された中に植えられているひまわりの群れの中に、わたしは足を踏み入れた。

P1017073.jpg


圧倒的な高さ・きらめくような花の色。
映画<ひまわり>の中でソフィア・ローレンがはじめてモスクワのひまわり畑を見た時に一瞬声を失っていたことをフラッシュバックのように思い出した。
無限につづくひまわり畑を見ても暑さを感じる事もなく、とめどもない悲しさにわたしも襲われた。

あの映画は悲しい物語だった。
ひまわり畑が実は敵兵を処刑した跡地に作られたものだったことも・・・
ずっと独りで帰りを待っていた愛する男性が、敵地で救ってくれた女性と家庭を持ち子供を作っていたことも・・・
戦地に赴き帰ってこない彼を待つ間の、彼女のやるせない気持ちに世間が向けた敵意も・・・

夏休みの象徴のような・・・能天気な花が、少し怖くなったのはあの映画をみたのがきっかけだったろう。

P1017061.jpg


そしてもう一つは<冬のひまわり>。
五木寛之氏の短編小説。
せつない・・・せつない恋の物語。
このヒロインは新たな恋のきっかけを手にできずに彼女を守る家庭に戻っていった。
それが自分にとっての幸せと信じて。

P1017080.jpg


途切れることのないと思われたひまわり畑は・・・・やがて住宅街へと姿を変えた。

白昼夢のようなひととき。
ひまわりにもう無邪気な夏を感じられないと悟った・・・そんな午後。


コメント
「ねぇ、綺麗に撮ってね」

そんな向日葵の声が聞こえてきそうです。
夏の陽射しに負けずに咲く向日葵の力強さに
比べると、ほろ苦くせつない向日葵物語♪

自分に言い聞かせるような言葉の向きが
気になりつつも…。



残暑お見舞い申し上げます。
まだまだ灼熱の世、ご自愛ください。


2008/08/13 19:56| URL | dreamcat  [Edit]
お一人の時間?
 祥子様
 暑中お見舞い申し上げます。
 暑い中、向日葵を見に行かれたのですね。
 察するに、祥子様には珍しくお一人で行かれたのでしょうか。
 いつも男性とばかりではなく、たまにはゆっくりと一人で、という気になられたのでしょうか。
 私も前に、向日葵農園に向日葵の写真を撮りに行った事があるのですが、私は暑さがいやで9月になってから行ったので、盛りを過ぎてほとんど花が落ちて、みじめな向日葵ばかりを撮ってきた覚えがあります。
 やはり綺麗な花の写真を撮ろうと思ったら、少々の暑さ寒さを我慢して、その花の盛りを狙わないといけないのですね。
 本当に祥子様の撮られた向日葵は綺麗ですね。
 遠景から入って、だんだん近くに寄って行って最後は大きな向日葵の花だけの大写し。
 基本に則った写真の撮り方、恐れ入ります。
 しかも、私が題名だけ知っていてまだビデオでも、見ていない映画の「ひまわり」。
 そして、タイトルさえ聞いたことのなかった五木寛之氏の短編小説。
 真に祥子様の教養の深さにはいつも恐れ入ります。
 これを機会に、私もこの2作に向き合ってみようと思いました。
 ちょっと小難しいことを書いてしまいましたが、祥子様の向日葵の写真と文章、本当に夏の姿が満ち溢れていて、読ませていただいて、夏を堪能してしまいました。
 後は、私はエアコンの効いた部屋で祥子様から紹介していただいたこの2作を堪能しようと思います。 

2008/08/13 23:09| URL | オーバーチュア  [Edit]
圧倒的な香りが押し寄せてきそうな風景ですね。
映画や小説のひまわりは…どこか悲哀を含んでいて、似たような思い出がそこから導かれそうで…愛に溢れる代表的な花言葉のうようには、行かないものなのかも。
何を選び取るか、太陽を向く片面のその裏を見たような気が致しました。
(新SS、楽しみに待っていました)


2008/08/13 23:10| URL | blue  [Edit]
誰も悪人はいないのに、皆が悲しい…。
あの苦しく切ない思いと、あのひまわり畑の由来に、私もひまわりを怖く感じます。
かつて住んでいた北海道で、巨大なひまわり迷路に幼かった子供と挑戦をした事があります。丈高いひまわりに見下ろされ、視界を遮られ、方向を見失い、周囲が静まり返り…恐怖を感じました。
主人に展望台から誘導され何とか脱出しましたが…。

明るい太陽が似合うはずの花なのに…ね。

2008/08/15 21:55| URL | るり  [Edit]
暑さ厳しき折、ご自愛下さいませ
手に触れる事が叶わぬのに
太陽に向かって真っ直ぐに伸びるヒマワリ     

太陽を独り占めしようとして苦しみ抜いたのは済んだ事。
凍り付いてしまった太陽にも真っ直ぐに伸びるヒマワリのようでありたい。
何があっても、何を知っても。
私のあの方に対する思いは私だけのものだから。

勇気付けられた本作に感謝致します。




2008/08/16 10:46| URL | かずみ  [Edit]
皆様 お盆休みはいかがでしたか?
思わぬ涼しい一日で締めになったお盆休みでしたが、みなさまいかがお過ごしでしたか?
わたくしは相変わらず仕事に忙殺されながら、夜な夜な美味しいものを素敵な方達とご一緒しておりました。
こんな夏休みも悪くはないものですね♪

dreamcat様
確かにカメラを向けたひまわりは、まるで子供が満面の笑みを浮かべてポーズをとっている時のようにも見えました。
でも中には背を向ける花や、強烈な太陽光に消え入りそうな花もあって・・・
一つとして同じ花などない、というのが花を撮るたびに思うわたしの感想です。

ただ、全く同じ花がないということが本当に幸せなのかな・・・とも思う今日この頃です。
時にはたくさんの花の中の一輪でいるのも心地よさそうです(笑)

オーバーチュア様
夏休みはいかがでしたか?
映画のひまわりはいまでは割と安価にDVDがあるようですが、小説の冬のひまわりは多少入手困難な代物になっているかもしれません。
お楽しみいただけたのならよろしいのですが。
写真は・・・まったくきちんと学んでいないので、気持ちの赴くままに撮っています。
最近はちょっと小さめでも折りたたみの脚立があれば、なんて思う事もあります(笑)。
女性として背の低い方ではないんですが、やっぱり視点はそこで固定されてしまうものですから。
欲を言えばきりがありませんね(笑)。

blue様
ひまわり畑を訪れて一番驚いたのは、本当にお花が一方向を向いて咲いていたことです。
お写真に撮ったのと反対側にカメラを向けると、揃って背中を向けたひまわりが一面に居て・・・「お願い、こっちを向いて」と言いたくなってしまいました。

いつか何かの決断をする時<自分だけ>のことで決めないフェア人間でいたいと願う今日このごろです。

るり様
そう言えば、北海道にはひまわりの迷路があるんですよね♪
いやぁ、あれだけ丈高ければ十分迷路になります。
意外に葉も大きくて目隠しになっちゃうんですよね。

いつか、そんな迷路に迷った時に声を掛けて助けてくれるパートナーと出逢いたいな と♪

かずみ様
この夏なにかおありになったのでしょうか?
こちらの物語がかずみ様のお役に立っているなら幸いです。
ひまわり園の無数の花をみて思ったのは、花はわたしになにがあっても、きっとこうして咲いているんだろうなっていうことでした。
悲しくても、嬉しくても、花はただ美しくそこにある。
少なくとも、そのことに慰めを感じられる自分でいたいなと思います。

わたくしも疲れてるみたいです(笑)

2008/08/18 19:54| URL | 祥子  [Edit]
おひさしぶりです。
お盆休みも忙しくって、すっかり出遅れてしまいました。
もうこちらでは、祥子さんの暑中見舞いはいただけないでしょうか?

いちめんのひまわり・・・
こんな光景が、都会の一隅にもあるのですね。
太陽にも負けぬくらい燃えるようなパワーを持った花が、なぜか画面を通すとしみじみと映るのは。
やっぱり映画のあの名作の連想でしょうか。
それとも、花を写すひとの面影を映したためでしょうか・・・

そういえば先日、新聞の片隅で、あのお話と同工異曲のお話があることを見つけました。
シベリア抑留者の日本人とロシアの女性とのお話でした。
いつの世にも、どこの国でも。
こういうもの哀しいお話がつむぎ出されてゆくものでしょうか。

夏の景色の写真を目にしながら、ふともの悲しくなるのは。
眩しく輝く青空が、にわかに秋の翳りを帯びてきたせいかもしれませんね。
季節の変わり目、ご自愛を。

2008/08/20 21:39| URL | 柏木  [Edit]
残暑お見舞い申し上げます
柏木様

ふと気づくと、夜の空気が少し優しく感じられるようになっています。
お忙しい様ですが、体調は崩されてはいないですか?

戦争は、ほんとうに嫌なことを沢山もたらします。
日本でもアメリカ軍が来たばかりの頃、日本妻と呼ばれた女性がいたと聞いた事があります。日本で家庭を持ち、子供も設け・・・それでも、軍人さんは任務が終わると本国へと帰っていってしまうのです。
本国の妻の元へ帰ってゆくだけ彼らの方が誠実だと、<ひまわり>の世界観で判断すれば言わないといけないのでしょうけれど、それで本当にいいのでしょうか???

久しぶりに、<ほたるの墓>を読みました。
悲しい物語なのですが、悲しいというよりも命が失われてゆくリアルさが迫って来て・・・読後、辛かったです。

今年の夏は、どうもいろいろリアリスト化してるみたいです。わたくし・・・

2008/08/21 15:28| URL | 祥子  [Edit]
出遅れまして・・・
祥子さん、おはようございます。
今回は、完全にお花のサイトになりましたね。

10日も前にアップされたひまわり、すっかり出遅れ、今、曇り空の下、北風が心地よい部屋で、拝見しております。

横浜市港南区の花は、ひまわりなのです。しかし、不思議なことに、私の周りでは殆ど見かけることが出来ません。

港南区区民文化センターも「ひまわりの郷」、そこで10月に私も実行委員会の一人になって開催するコンサートも「ひまわり区民コンサート」・・・なのに・・・
私のブログにも、こんなひまわり畑を入れたいです。

映画の「ひまわり」は、見た時には、まだその心情が良く理解できない年頃だったのでしょうか、余り印象に残っていませんが、テーマ音楽だけがが耳に残っています。

2008/08/23 08:13| URL | やまゆり  [Edit]
なにかとご縁が・・・
やまゆり様
暑さ寒さも・・・とは彼岸ごろの季節を指す言葉だったはずですが、お盆が終わった途端にあれほど激しかった暑さも一気に落ち着いてきたようです。

映画のひまわりのテーマ曲。
名曲でしたね。
ポスターと、テーマ曲の間のギャップが幼かったころのわたしにはピンとこなくて、なんでこんな映画(明るくて・楽しそうな)なのにこんな音楽をつけるんだろう、と不思議に思ったことがあります。
ひまわりやドクトル・ジバコ、慕情など・・・あの時代の映画はなんとなく一言では説明できなくて、大人も子供に説明しにくいような、そんな不思議な雰囲気を醸し出していたように思います。

2008/08/25 11:16| URL | 祥子  [Edit]
コメントフォーム
Name
Mail
URL
Subject
Comment

Pass
Secret
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)