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第九 合唱付き 1

12月の末。雪すらも舞いそうな凛と冷たい空気が、ミンクのコートに包まれたわたくしを取り囲むのです。
もう午後には雪空が宵闇のような暗がりを作り出していたのです。
いまは18時。コンサートホールへ向かう人波の中で・・・わたくしは思いがけない男性の姿を見かけた様に思ったのです。
 
 
今夜は<第九>を聴きにここまで来たのです。
この交響楽団は毎年・・・わたくしのバースデーに決まった様に<第九>を公演しているのです。独りになってからずっと、わたくしは自分へのバースデープレゼントとご褒美のつもりで席をリザーブしているのです。
年末のひと時、慌ただしさを忘れる様に贅沢な時間に身を浸すためでした。
 
最近はクラシック・コンサートも随分カジュアルになってきているようです。
特に第九は合唱付きということもあって 合唱に参加される方のご家族が身内の晴れ姿を楽しみに、にぎやかな会話を繰り広げながらいらしているのが特徴でもあるのです。
その中で一人きり入って左側のクロークに進むわたくしは、もしかしたら少し珍しい存在だったのかもしれません。
ミドル丈のミンクのコートをコンサートホールのスタッフに預け、緑の札を受け取ります。黒のバッグのサイドポケットに札を仕舞うと、ゆっくりと古いホールの佇まいを楽しむ様にロビーを横切ってゆきました。
 
今夜はミドルヒールの黒のパンプスに黒のガーターストッキング。
ベルベット素材のプリーツスカートに、ビーズとスパンコールをちりばめた黒のツインニットを組み合わせたエレガントな雰囲気のコーディネイトにしてみました。
本来でしたら夜の公演です、ヨーロッパの劇場でしたらドレスで訪れるのがルールなのです。が、日本ではなかなかそうはまいりませんわね。
前身頃を同色のビーズとスパンコールで彩るニットは、華やかに控えめな存在感を放っていました。
ツインニットの肩には軽く巻いた黒髪がふわりと乗っています。

ロビーを歩いているうちにあることにも気がつきました。
わたくしとすれ違う何人かの男性の視線が、ふっ・・と止まるのです。今夜はさほど目を引くような姿ではなかったはずです。なのになぜ?
ただ一カ所・・・わたくしのGカップの胸の隆起を光りの乱反射で強調してしまうことにそのときはじめて気づいたのです。

ケリータイプのコンパクトなハンドバッグだけを持って、指定された席に向かいます。
会場の中央より少し前。センターブロックの右端・コントラバスを正面に見つめられる場所にわたくしの席がありました。
丁度通路を挟んで、階段状に客席が一段高くなっているポイントでした。
右手の通路の向こう、ライトブロックの端に三脚にセットされたカメラが置いてあったのです。
広報のカメラなのでしょうか? それとも・・・今日の合唱に参加する一般の方へのサービスなのでしょうか。
コンサート会場では滅多に見かけないその機材の持ち主に、わたくしは興味をそそられたのです。
 
今日は満席のようです。なのにカメラのあるライトブロックからの3列だけはお客様がいらっしゃいませんでした。
開演5分前のベルが鳴りました。
そこにようやく腕章をした二人の男性がお見えになったのです。
「あっ・・・」 
そのうちの1人はわたくしが存じ上げている方でした。
ノースフェィスのジャケット、チノパン、180cmを超える身長・・・パリに行くと言っていた・・・美術館で出会ったあのカメラマンの男性だったのです。
わたくしが気づくのと、男性が気づいたのはほぼ同じころだったようです。
同行している若いスタッフと話しながら近づいてきた男性は、わたくしをじっと見つめると視線を外さずに席まで来て、座る前に会釈を返してきたのです。
あの時の記憶に残っている・・わたくしが逆らうことのできない声で・・・一緒にいるスタッフにいくつか指示をするとカメラを手にしました。
男性から渡された名刺に書かれていたのは、アート系では評価の高いフォトグラファーの名前だったのです、
この舞台を撮る・・彼の作品として・・・それが今日の彼の仕事なのでしょう。
数ヶ月ぶりに見る男性の、あの日と変わらない・真剣な眼差しをファインダーに向ける横顔を見つめるうちに上演のベルが響いたのです。
 
第九の公演は例年通り小品を1曲と第九の第二楽章までの一部と、第九の第三楽章・第四楽章の二部構成になっておりました。
圧倒的なフルオーケストラの響きは否応なくわたくしの思考を虜にしてゆきました。
特に今年のエグモントは好きな曲の一つだったからです。
そして・・・第九へ。
プログラムは流れる様に進みました。
少し悲しみや苦しささえ感じさせるような第一・第二楽章の音のシャワーを浴び、会場の拍手にほぉっ・・とため息をつくと・・客席が明るくなったのです。
第三楽章からクライマックスへ向けてひと時の休憩の時間です。
通路を挟んだ席でアシスタントに指示をしている男性を横目にみながら、わたくしは席を立ちました。
 
ロビーは人で溢れていました。
第九の時には、ロビーではホテルからのケータリングサービスが用意されています。
いつものようにグラスシャンパンンをいただいて、人で埋まるソファーではなく窓から外庭が見えるガラス張りの窓辺へ向かいました。
今夜はよほど気温が下がっているのでしょう。
ガラスは凍り、その側にいるだけですっと冷えてゆくのが解るほどでした。
その時のわたくしには・・・ほんの少し口にしたシャンパンの酔いと、心地よい演奏への興奮と期待を程よくクールダウンさせてくれるように感じたのです。
広がる庭に立ち木の配された庭は今宵はライトアップで幻想的な様子を示しておりました。時折吹いているであろう風が梢を揺らしてゆきます。
もう一口・・・シャンパンを口にした時です。
「久しぶり。元気なようだね」 
あの男性の声がしたのです。
「・・・お久しぶりです」 
ガラスに映り込む姿を確認してから、ゆっくりと振り返りました。

そこには本来であればこの場には相応しくない・・・でもこよなく彼に似合うスタイルをした男性がおりました。この時に声を掛けられる予感がなかったわけではありません。
「お仕事はよろしいの?」 
「あぁ アシスタントに任せてある。少しくらい立たないと腰がおかしくなりそうだ」
苦笑いをすると、わたくしの手からシャンパンのグラスを取り上げるのです。
「ごちそうさま。これ以上酔うと仕事に差し支えるからな」 
グラスに残っていた半分のシャンパンを飲み干して・・・わたくしにグラスを返すのです。
「あん・・だ・め・・」 
左手にバッグを、右手にシャンパングラスを持ったわたくしを窓ガラスに押し付けると・・唇を合わせるのです。
「どうして連絡してこなかった」
「あなたの気まぐれだと思ったからですわ」
「パリにいても君の幻が側にいた。祥子という名前しか僕にはわからなかった。東京に戻ってからあの時間に何度か美術館にも行ったんだよ」 
男性のその言葉が嘘ではないと・・瞳の強さが告げていました。
「うそ・・・」 
でも わたくしの口から出たのはその一言でした。
「嘘なんか言わないさ。今日隣の席にいる君をみつけて僕は神を信じてもいいと思ったよ」 
もう一度 唇を重ねるのです。
「だめ・・・こんなところで・・」
「今夜は最後まで味合わせてくれるね」
「だって・・・あなたはお仕事が・・・あん・・・やぁ・・」 
ロビーにはまだ人が溢れていました。端の柱の陰とはいえ・・・大人の男女が戯れていいわけではありません。それにそろそろ上演の時間が近づいていました。
「ここで君を離したら2度と会えなくなりそうだ。今夜時間をくれるね、祥子さん」
男性の声は・・・あのときと変わらない力を持って、わたくしの心を動かすのです。
「・・・は・い」 
躊躇いがちなわたくしの返事は、上演をしらせるベルにかき消されてしまいました。

第九 合唱付き 2

第三楽章は・・・わたくしの耳にきちんと届いてはいませんでした。
通路を隔てて真剣にファインダーを覗く男性の声が、わたくしの脳裏でリフレインしていたからです。
彼の声と口づけはシャンパン以上の酔いをわたくしに与えていたのです。

第四楽章のテノールの声がわたくしを贅沢な音の世界に呼び戻しました。
オーケストラと4人のソロ・・・そして混声合唱団の声。
圧倒的な音の洪水に祝福されて、わたくしのバースデーの夜が・・・はじまったのです。
 
幾度も繰り返されたカーテンコールの拍手の間、男性はアシスタントにせわしなく指示を繰り返していました。
20代後半なのでしょう。線は細いながらもしっかりとした印象のアシスタントは、メモをとりながらてきぱきと立ち働いていました。
拍手が止みゆっくりと周囲の観客が立ち始めました。
一番通路側のわたくしも立ち上がり、ロビーに向かおうとしたのです。
「どこに行くんですか?」 
わたくしの右手を彼が掴んでいました。
「ロビーへ・・」
「だめです。あなたはここに居てください」 
一番端の席で機材のパッケージングをしているアシスタントの隣に移ると、わたくしを最前まで彼が座っていた席に座らせるのです。
「ロビーでお待ちしていますわ」 
アシスタントの方の眼を気にして・・・わたくしはその場を離れようとしました。
「だめです」
「お約束は違えませんわ。お仕事のお邪魔になってしまいます」
「いえ大丈夫です。ここに居て下さい」 
男性の声は、わたくしに有無を言わせない強さを持っていたのです。
「先生。それじゃスタジオに機材を運んで上がります」 
男性の後からアシスタントが声を掛けます。脚元には3つほどのジェラルミンのケースと2つほどの円筒形のケースがありました。
「あぁ 気をつけてな。ゆっくり休んでくれ」
「はい、先生も良いお年を」
「また年明けにな。おつかれさま」
わたくしにまで頭を下げて、重そうな荷物を両肩に掛けて・・アシスタントは去ってゆきました。
「お手伝いしなくちゃ・・」 
「いいんだ。彼は慣れてるんだよ、これも仕事のうちだ」 
会場のから観客はほとんどいなくなっていました。舞台の上の椅子を撤収するスタッフが出入りする中で・・・男性はまたわたくしに唇を重ねたのです。
既に煌煌と灯りのともる客席での戯れなんて・・・
「だ・・め・・っ・・」 
「すぐこの場で貪りたくなる、口紅の味のしない祥子さんの唇。あの時と同じだ」 ちゅっ・・・と、おちゃめなキスをして彼は立ち上がったのです。
「もうクロークも空いた頃だろう。行きましょう、祥子さん」
 
クロークからわたくしのコートをピックアップすると、慣れた様子でわたくしに着せかけてくれました。
「ミンクをこんなにしっくり着こなす日本人はなかなかいないんだが。さすがですね、祥子さん」 
腕を差し出しながらお世辞のような言葉を口にするのです。
「パリで素敵な方を沢山ご覧になってらしたんでしょう」
わたくしがしっている彼の情報はほんの少しだったからです。石畳と歴史のある建物が作り出すマロニエの通りを思い出しながら、共通の話題を探しました。
「いつものパリコレですよ。せっかく行ったのでオペラ座で僕の好きな舞台写真も撮ってきました。パリでもあんなにセクシーにトレンチコートを着こなした女性には見かけませんでしたよ、祥子さん」
「い・・や・・」 
雨の美術館の夜・・・ランジェリーにトレンチコートだけで街を歩き・・・辱められて。
タクシーの後部座席でわたくしは頬を染めてしまいました。
「白い肌にゴールドのランジェリーは素敵でしたよ。今夜は何色なんですか」
耳元に口を寄せて囁くのです。
「そんなこと・・・」
運転手の耳があるのに・・・口になんてできないわ。
「この眼で確認すればすむことですからね」 
ふっ 口元を歪めるようにして笑うのです。
「お客様 こちらでよろしいんですか?」 
「あぁ ありがとう」
あのレジデントの前で車が止まりました。

 
コンサートホールで右手を掴まれてから、彼はずっとわたくしを離してはくれませんでした。そして今も・・・
「どこにも行かないわ・・・あん・・」 
エレベーターのドアが閉まるなり壁に押し付ける様にして唇を重ねるのです。
「・・ん・・んぁ・・だめっ・・」 
チン・・16階への到着ベルが鳴ってもキスを止めず、ドアが開いてようやく唇を離してくれたのです。
 
あの夜と同じ・・彼の部屋でした。
「どうぞ 靴のままで」 
彼は部屋の入り口でわたくしのコートを脱がせるとスタンドに掛けて・・今夜は以前に通されたリビングではない、もう一つの扉を開けたのです。
キングサイズのベッドにサイドテーブル、ラブソファーが一つとミニテーブル、シンプルで端正に整えられている部屋でした。
男性は部屋に入るとスタンドの灯りを付け、ベッドの枕元のオーディオからラフマニノフを低く流しはじめたのです。
「そこに座っていてください。それともいきなりベッドルームなんてムードがなさ過ぎですか?」
ははは・・と笑うとわたくしを置いて部屋を出てしまいました。
ライトベージュで統一された部屋は、チェリー材の柱がアクセントになったシックで落ち着いた部屋でした。
壁には・・・当然なのでしょうか・・・一枚の絵も写真もありませんでした。
ただベッドのヘッドボードにはオーディオセットと電話と灰皿、そしてもう一つ半球状の機械が乗っていました。
男性の吸う煙草の香りがほのかに・・・漂っていたのです。
 
コン・・コン・・・寝室のドアの向こうでグラスの音がしています。
「自分の寝室の扉をノックするのも変なものですね」
ハードなアウタージャケットを脱いだ男性が、ワイングラスとボトルを手に部屋に入ってきました。ヘンリーネックのニットシャツにチノパン、脚元はラフなムートンのスリッパに変わっていました。
「何か珍しいものでも見つけましたか?」 
ソファーに座ること無く立ち尽くしていたわたくしに声を掛けます。
「これ・・・何なのでしょう」 
半球形の機械を指さしたわたしに、男性はミニテーブルに一つだけのグラスを置き白ワインを注ぐとスタンドの灯りを消しました。
「こうなるんですよ」 
カチッ・・・スイッチ音と共に天井に満天の星空が表れたのです。
「すてき・・・」 
白い壁と天井の理由はこれだったのでしょうか。何も遮ることの無い野に横たわっているかの様に星が降るのです。
「座らないのかい?」 
グラスを持った男性が側にきていました。
グラスの中身を口にすると・・・そのままわたくしに唇に流し込みます。
「・・ん・・んくっ・・・」 
舌を・・喉を流れて行く香り高いワイン・・これは・・・
「アウスレーゼだが、嫌いかな?」
「いいえ・・・好きよ」 
あのジャズライブのホテルでもオーダーして用意してもらっている、比較的甘口のドイツワイン。
答えを待っていたかのように男性はもう一口、口移しに飲ませるのです。
「あん・・・酔ってしまう・・わ」
早い時間に口にしたシャンパンの酔いとこの男性との突然の出会いが、わたくしを甘やかな酔いにひたしていたのです。
「酔えばいい。今夜は」 
また一口・・・ワインを口移しし終えても・・男性の唇はわたくしの舌と唇を貪る様に離れませんでした。
「く・・ちゅ・・・ん・・ぁ・ぁぁ・・」 
立ったまま男性の胸元に身体を預けて・・・唇の内側や舌の粘膜が触れ合う淫媚な感触に浸っていました。
「キスだけでもいいな」 
ベッドのサイドテーブルにグラスを置くと、わたくしのカーディガンの肩を当然のように引き下ろし・・・床に落とすのです。
シャラ・・・スパンコールが床に触れる音を合図のように、抱きしめられてしまいました。
この前の出会いはあまりに刺激的過ぎました。この方との次の出会いは、もっと激しく辱められる時を過ごすことになるのだと・・・わたくしは勝手に思っていたのです。 
こんな穏やかで秘めやかな関係を持てるとは思ってもみませんでした。

第九 合唱付き 3

「このスパンコールがずっと僕を幻惑していたんだよ。客席の暗闇でも、祥子さんの魅力的なバストを感じさせてくれたからね」
背に回していた右手を胸に・・・あてがうのです。
「はぁ・・・あっんん」
ニットの上から・・・ランジェリーごしでさえも熱く柔らかい男性の掌に、ぴくん・・と身体が勝手に応えてしまいます。
声を同じに、わたくしを抵抗できなくしてしまう・・・男性の魔法。
「柔らかいな。手のひらに余るこの量感、あの時のままですね」
左手で逃れられない様にわたくしの肩を抱き、右手は容赦なく乳房を揉みしだくのです。
「ぁぁっ・・・あ・はぁん・・」
今夜の薄いレースのランジェリーは、男性の手にすでに堅くしこった乳首の感触を伝えているに違いありません。その羞恥がわたくしをさらに駆り立てるのです。
「相変わらず敏感だ。それにこの薫り、もうフェロモンをまき散らしはじめてるんですね 祥子さん」
わたくしの耳元に鼻を寄せ・・・わざとくんくんと嗅ぐ真似をするのです。
「やめ・・て・・おねがい、恥ずかしいわ」 
男性の胸に顔を埋めるようにして、視線を避けるしかありません。
「その白い肌に他の男の付けた印などないでしょうね、祥子さん」
タートルネックに覆われた首筋からなだらかな胸元への白い肌理の細かい肌は、ほんの少し強く口づけただけで紅い印を残してしまいまねない場所なのです。
「い・いえ・・ないわ」 
頑是無い子供がいやいやをするように首を振って否定をしたのです。いまは、どなたの付けた痕も残っていないはずでした。
 
「こちらを向きなさい。祥子」
両手で肩を持ち逞しい胸からわたくしを引き離すと、男性の声がそう命じました。
「今夜、その恥辱にまみれた君の顔が見たかったんです。隠すんじゃありません。わかりましたね」 
「・・・は・い」
「違うだろう、祥子。きちんと言いなさい」
「は・・ぃ・・申し訳ございません。ご主人様」
なぜ・・・わたくしはこの方の声に命じられると<ご主人様>とお呼びしてしまうのでしょう。決して主従の関係を誓わせられた訳でもないはずなのに。
「いいコですね。さて今夜のランジェリーを祥子の口から説明してくれませんか」 
あの時と同じ・・・羞恥を感じずにはお答えできないような質問がはじまったのです。
「説明なんて・・できません」 
俯こうとする顎を捉えられ、わたくしは彼から視線をそらすことを許されなくなってしまいました。
「出来ない。そう言ったらどんなお仕置きが待っているのか解っていますね、祥子」
昂ったところのない冷静な声でそう告げるのです。
「お仕置き・・・いやぁ・・」
この方は縛ったり・鞭を振るう訳ではないのです。心と精神を真綿で締め上げるような男性のお仕置きは、わたくし自身が虜になってしまいそうな・・・怖さがありました。
「今夜はいくらでも時間がある。きちんと出来るまでお仕置きを繰り返してもいいんですよ、祥子さん」
有無を言わせないあの声が・・・わたくしを追いつめます。
「おねがい・・です・・酷いこと・しない・・で」
瞳に宿る怯えの陰は男性の嗜好を一層刺激してしまうのかもしれません。
「それなら素直に説明しなさい。簡単だろう、身に付けているランジェリーがどんなに男をそそるものなのかを説明するだけだ」
「そそる・・・なんて」
「デートでなければセクシーな下着を身につけないなどという愚かな小娘ではないでしょう、祥子は」
今夜はコンサートで第九を楽しみ軽くお酒をいただいて自宅に戻る予定でした。
そんな時でもきっと男性を満足させるものを纏っているはずだと・・・彼は言うのです。
男性の脳裏に浮かんでいるのは、偶然に出会った夜に身に付けていたゴールドに光るサテンのランジェリーなのでしょう。嬲られ愛液を滴らせるとブラウンに色合いを変えるはしたない下着。
「・・・・ぃゃぁ・」 
「すれ違うだけでふっと漂う色香は男と逢う・逢わないに関わらず身に付けたセクシーなランジェリーの賜物でしょう。それも高級で上質な素材でつくりあげられたものだけ。ちがいますか?祥子」
こんな風に眼を見つめられたままで、わたくしのランジェリーに対する思想を口にされるとは思ってもおりませんでした。
ただ違うのは・・・決して男性を籠絡するためだけに選び・身につけているのではないということなのです。
「聞かせなさい。君の口から聞いてから、この眼で確かめさせてもらうのが楽しみなんだよ。この前よりも易しいだろう、さぁ!」
この前は、男性の前で官能に濡れそぼったからだの状態を告白しなさいと・・・強要されたのです。とてもできるものではありませんでした。今回はランジェリーです。言葉にするのは・・・それに比べれば容易かもしれません。
「ターコイズブルーの・・・リバーレースのセットです」
顔をあおのけられたままでしたので、瞳だけを伏せて囁くほどの微かな声で語りはじめました。
「何を身に付けているんだい」
「スリップとブラジャーと・・・パンティーと・・・ガーターベルトです」
「ほぉっ・・・祥子はいつもガーターだね」
「いえ・・そんなことは・・・」
以前にも男性にこのことを指摘されたことがあるのです。決して毎日ガーターストッキングなわけでもないのに、なぜか身に付けた日に限ってこんな風に男性に出会ってしまうのです。
先ほどこの方が口にした・・・ランジェリーの効果のせいなのでしょうか。
「スリップは透けて見えるものか?」
「・・・わかりません。全て薔薇柄のレースで構成されたものですから」
「ふふっ 肌が透けて見えるな。ブラはどんな形なんだ」
「普通ですっ・・・フルカップのレースだけのものです」 
Gカップのバストは、それ以上の大きさを強調する必要などないのです。
柔らかにシルエットを整えるためにストレッチリバーレースだけで作られたカップが、一番つけ心地がいいのです。日本製の幾重にも不織布を重ねたものは・・・身体の変化を響かせない効果はありますが・・・わたくしには不要なボリュウムを加え過ぎるので好みではありませんでした。

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「イタリア製だね。相変わらず祥子の下着は趣味がいい」 
「なんで・・・そんなことまで」
「私はファッション写真も撮るんだよ。仕事上の知識の一つだよ」 
ふっ・・と唇をゆがめるような笑みを浮かべます。
「それにね、さっき手のひらに祥子の大きくなった乳首を感じたからね」
「いやぁ・・・」
既に身体は、男性の与える淫らな刺激に反応してしまっていることを知られてしまったのです。
「続きです。パンティはいつも通りのTバックなのかい?」
「・・・は・い、でも・・・いつもじゃ・・ない・・です」
「いつもじゃなくても、僕は君に出会った二度とも祥子の白い尻をこうして下着を付けたままで嬲れるわけだ」
背の手を無遠慮に腰に下ろすと・・撫で回すように腰を撫で、ぐいっ・・と掴み上げるのです。
「あうっ・・・」
「もうパンティの色が変わるほどに濡らしているのか?」
「そんなこと・・・」
「見ればわかることだ。嘘をつけばお仕置きをする。もう一度聞くよ、祥子。もう濡らしているのか?」
「・・・は・ぃ・・・」 
色が変わるほどではないにせよ、服を着たままなのに、わたくしのガーターストッキングの上の内ももはもうしっとりと・・・ぬめりを帯び始めていたからです。
「いいコだ、祥子。ここで・・僕の前で服を脱いでご覧。ゆっくりとストリップをするんだ」
「・・や・ぁ・・できませ・・ん」 
男性の目の前での脱ぎ着など、もっともはしたない無防備な姿を晒すなんて・・・
わたくしにとって身支度は、男性の眼の届かないところで済ませるものなのです。
「もう こんなになってるんだ」
わたくしの手を男性の前に・・・押し付けるのです。そこは明らかに堅く昂った塊がひくひくと蠢いておりました。
「強姦のようにパンティを引きちぎって犯されたいか? そうしたいのを堪えているんだ。もう一度言うよ、祥子。僕の目の前でストリップをしてみせなさい」
男性の声はほんのわずかの高ぶりも感じさせない、いつもの深く甘い声なのです。切羽詰まった様子もなく淡々とわたくしに命ずるのです。
でも・・・ストリップなんて・・でき・・な・いわ。ふるふるとわたくしは首を横に振りました。

第九 合唱付き 4

男性はわたくしの様子を黙ってみつめ、そのままサイドテーブルの引き出しに手を伸ばしたのです。
ジャ・・ラッ・・ その手には鎖のリードのついた首輪がありました。
「や・・・」 
一瞬・・・なにが起きたのかわからないわたくしをベッドに押し倒し、男性の身体で押さえ込むとまとわりつく髪ごとその首輪を付けたのです。
「いやぁ・・許して」 
首を締め付ける革の堅い感触・・・。
犬のように付けられた鎖のリード・・・。
「聞かない。選んだのは祥子だ」 
リードの端をベッドの脚に留め付けると、ベルベットのプリーツスカートの中の脚を乱暴に掴みます。
「しないでっ・・」 
男性の180cmを超える体躯でわたくしを身動きできなくさせ、両手をまとめる様に持つと頭の上に押さえつけられました。
「うっ・・くっ・・ん・・」
左手でわたくしの手を押さえ、両脚の間に割り込ませた身体の間を右手で嬲りながら・・・唇までもを奪うのです。
「こんなに濡らして。乱暴に犯されたかったのか!祥子」 
くちゅ・・くちゃ・・指の動きに合わせて、はしたない水音が響きます。
「いやっ・・しないで」 
ジャラ・・淫らな指の動きから逃れようと身を捩る度に鎖の音が響きます。
「赤い犬の首輪が良く似合うぞ、祥子」
Tバックの細いクロッチをくいこませ、花びらを弄っていた指先をわたくしの目の前でねぶり・・・その手をそのままスパンコールをちりばめたカットソーの裾に・・・そして一気に首元まで捲り上げるのです。
 
「い・・やっ・・やめて!!」 
「うるさいぞ! 祥子」 
カ・チャ・リ・ 男性はもう一度サイドテーブルの引き出しに右手を伸ばすと、鈍く光る銀の手錠を取り出したのです。
わたくしの上体を首輪の鎖が許すだけ引き起こし・・・カットソーを脱がせ・・首輪のチェーンに絡めたままにすると、後ろ手に手錠を掛けて再び押し倒したのです。
「いた・・い・・」 
身体の下敷きになった手首に冷たい金属の感触が強く押し付けられました。
「白い肌を透かすターコイズのレース。破ってやりたくなる」
両肩から乱暴にストラップを引き下ろすと、左の乳房を握りつぶすように指を食い込ませ・・右の乳首に歯を立てるのです。
「・ひぃぃ・・やぁぁ・・・」 
快感と痛みが同時に襲います。
先ほどまでの穏やかさが嘘のような男性の豹変に、わたくしは身を震わせておりました。
「その悲鳴すら媚薬だな。フェロモンの薫りも一層濃い、ふふ 舌先でまた乳首が大きくなったぞ、祥子」 
今度は左の先端を舌で執拗に嬲るのです。
「ゆるし・・て・・あ・あぁぁぁ」 
身を捩ることさえ、身体の下敷きになった自らの手首を責める動きになってしまうのです。
「いいか! 祥子」
「あっ・う・っくぅはぁぁ・・」 
Tバックを身に付けたまま・・・口戯もしないままで、かりの張った大きな昂りを押し入れたのです。一瞬の、みしっ・・というきしみのあと・・・溢れ出る愛液が、わたくしの花びらの最奥まで一気に男性を受け入れさせてしまったのです。
「うっ 僕のものをいっきに全部飲み込んだぞ。なんて淫乱な身体なんだ、祥子! どうだ!!」
男性が腰を引けば、わたくしの中がこそぎ出され・・・白く濁る愛液までもが汲み出され、奥につき入れられれば支えるもののない身体を、どんどんと追い込んでゆくのです。
「はぁ・・ん・・あぁぁぁ・・ぃ・・ぃぃ」 
ぐちゅ・くちょ・・ それだけで赤面してしまいそうな淫液の音が、いつのまに流れている第九の合唱に重なります。
左手は何度も柔らかな白い乳房をこね回し・・握りつぶそうとするのです。白い肌に男性の指が埋まり、短く切った爪の痕が幾重にもわたくしの肌を赤く染めてゆきます。
「犯されて 感じるのか ここか!!祥子」 
わたくしの胎内の上壁を擦る様に抜き・・・突き入れるときは、花びらの上で濡れて振るえる真珠をその根元でくじるのです。
「あぁぁ・・やぁ・・・いくぅぅ」 
ジャラ・ジャラ・・ 首輪の鎖を揺らすほどの・・休むことのない強烈な抽送が、わたくしを一気に頂点に追いやるのです。
「いけ!!祥子 いくんだ!」 
「あっ・・いっくぅぅぅ・・・ぁぁあぁぁぁ」 
わたくしは一人きり・・・真っ白く霞む官能に蕩けて行ったのです。
 
くちゅ・・・男性が昂りを引き抜きました。
「まだ 私は満足していないからな」 
絶頂に蜜壷を引くつかせているわたくしを俯せにすると・・犬の姿勢を取らせるのです。 ただ、後ろ手に手錠をしたままなので腰だけを高くあげる・・・恥ずかしい場所がすべて男性の視線に晒される・・淫らな姿勢にされてしまったのです。
「腰を高く上げろ! 連絡をしてこなかった罰だ!!」 
パシ・・食い込まされたTバックで露になっている右のヒップに男性の手が飛びます。
「ひっ・・ゆるして・・」 
痛みがわたくしの意志を幽かに呼び覚ますのです。悦楽の余韻に力の入らない膝をようやく立てて・・・男性の声に応えました。
「そうだ!祥子は犯されて逝く淫乱な牝犬なんだ!!」 
そして後から、昂ったままの塊が改めて突き入れられたのです。 拭われることすら無かった蜜が外気で冷え・・・わたくしの花びらのはしたない淫熱を思い知らせます。
「やぁ・・あっくんぁぁぁ」 
ベッドに半ば押し付けられた唇から漏れる喘ぎは、男性を一段と煽ってしまったようです。
「こんなに締め付けて! うぅ・・・また なんて身体だ!」 
後からの責めに敏感なわたくしの身体は・・・ベッドに押し付けられる乳首の疼きを相まって・・耐えられないほどの快感を胎内の柔肉の蠢きに変えていったのです。
「ゆるして・・だ・め・・また・・いっちゃう」 
第九は次第にクライマックスへの合唱の声を高めてゆきます。
「欲しいか!!祥子 言うんだ!!ご主人様にお願いしろ!!」
「あぁぁ・・・だめぇぇ・・・」
「どうした! こんなになってもまだ言えないのか!」
「ゆるして・・ぇ・・こわ・・れちゃ・・ぅぅ・・」
「言え! 祥子の口からきちんと聞くまで このまま責めつづけるぞ!」
「はぁぁ・・ぁん・・やぁぁ・・・」
「はしたなく強請ってみせろ! 祥子!! こうか!ここか!!」
「あっ・・もう・・だめ・ぇぇ・・おねが・ぁぃぃ・で・すぅぅ・・しょうこで・・いって・・くださぁぁぁい」
「最後まできちんと言うんだ!」
「あぁあぁぁぁ・・ごしゅじん・・さまぁぁぁ」
「いくぞ!祥子」 
どくっ・・どく・・どくっ・・白い腰に両手の指を食い込ませながら・・・男性はわたくしの中で逝ってくださったのです。

祥子からの手紙-9

第九の夜から二日間。
わたくしは赤い首輪とターコイズブルーのランジェリーにパンプスという姿で・・・あのレジデンスで過ごしました。
「こんなに乱暴にするつもりじゃなかった」
あのあと手首の手錠を取り・・・一緒に入浴をしながら高梨様はそうおっしゃいました。
そしてこれからも時折逢えないか・・・とも

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わたくしの白い肌に映える赤い首輪は高梨様のお気に召したようです。
でもそれは首輪だけのこと。
レイプのような激しく荒々しい行為を求められる事はもうありませんでした。
その後は優しく・愛おしげに・・・あの方の声による言葉責めに羞恥心を酷く嬲られ続けた交わりを重ねました。
 
帰り際にもう一度尋ねられたのです。
また逢えないか・・と。
運命があるのならお逢い出来るでしょう、わたくしはそうお答えしました。
君のために首輪はとって置くからね、と仰る高梨様とお別れしたのは今朝のことでした。
 
いま、わたくしの手元には『今夜21:00お迎えに上がります』というセルシオの男性からのカードがありました。
あの運転手を迎えによこすと・・・
新年を・・・わたくしはあの方達と過ごすことになってしまうのでしょうか。
首筋にまだ首輪の痕が微かとはいえ残っているままなのに。
 
運転手がくるまであと5時間。
つかの間のひとりの時間を・・・・過ごさせてくださいませ。
 
みなさま どうか良いお年をお迎えください。