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蕩ける夜に

百貨店の催事場は足を踏み入れるのをためらうくらいの人ごみでした。
<バレンタイン・フェア>
多分日本で・・いえ、このひと時きっと世界で一番、チョコレートと恋する女性が集まっている場所なのでしょう。
世に言う『義理チョコ』を十数個。
わたくしは、行きつけのフレンチレストランにオーダーしておいたのが正解だと確信しました。
出来るだけクオリティの高いものを少しだけ、個人で自宅に持ち帰っていただけるパッケージングでというのがわたくしのチョコレート選びの基準です。
それでもわざわざ一日限定100個のものをオーダーしたのは、『義理』の中に仄かな本命の相手が混じっていたせいかもしれません。

大人の恋・・・と言ってしまえば陳腐になってしまいそうな恋愛に、わたくしは片足を踏み入れかけておりました。
仲の良いボーイフレンド。極上の飲み仲間。気の合うお友達。
どれだけ一緒に居ても周囲の誰も絶対に<恋>と結びつける事のない恋愛は、この一年ほどの間、秘めやかに育まれておりました。


恋人になって初めてのバレンタイン。
<本命チョコ>を用意しようかと、実はこのひと月ずっと考えていたのです。
彼だけの特別なチョコレート。
職場の皆さんと同じチョコに添える、+αのプレゼント。
恋をしていても、どれだけのメールを交しても、なお伝えたい想いは日々溢れ他の人と違う<な・に・か>に形を変えようとしていました。

「いいんだよ。そんなものに気を使わなくても。」
雪の日の滑りそうな足許を言い訳に組んだ腕に、思わぬ力を込められて囁かれた言葉にわたくしは自分の中の女の愚かさに気づいたのです。
「もう祥子の告白は受けたつもりだけどな。それとも別の男に告白するためのチョコの相談かい?」
「そうね。」
「だろ♪」

溢れる恋を溢れるままに恋人に伝える、それがわたくしの恋でした。
でも、それが出来ない・・・する必要のない・・・してはいけない・・・大人の恋。
どんなに切ない恋でも、いまのわたくしはもう決して手放すことが出来なくなっていたのです。


バレンタインの前日。
オーダーしたチョコレートの詰め合わせを取りに行ったわたくしに、パティシエがウインクしながらこう告げたのです。
「たった一箱だけですが、秘密の媚薬入りのをご用意してあります。祥子様の恋が実りますように。」


2月14日の18:00。
そろそろ彼が仕事を終えて、わたくしからのチョコレートを手にする時間です。
いつも職場の男性全員に持ち帰ってもらえるように用意されるたくさんのチョコレートの中の一つを選んでいるころに違いありません。

媚薬入りのチョコレートは彼の手に落ちたのでしょうか。
それとも・・・
今夜のメールが楽しみです。



春色の空

「えっ、こんなに寒いの?」
オペラピンクのピーコートで部屋を出たわたくしは、思わずまだ暖房の効いた部屋の中へと引き返してしまいました。
たしかに天気予報は最高気温は8度だと告げていました。
でも、高い天井寄りの飾り窓から見える優しい空の色は、もっと暖かい外気をイメージさせたのです。
コートの下は黒のベロアのワンピースでした。ボートネック風に開いたラウンドカラーとプリンセスラインのシンプルなデザイン。でも、起毛素材の暖かさがこの季節にぴったりの一枚です。
春らしい明るい色のキュートなコートを脱いで、わたくしはリバーシブル仕立ての軽いミンクを手にしたのです。
優しくて、女性らしくて、でも、媚びないこと。
昼のデートの装いのルールに合わせてミンクのコートをバックスキンの側を表にして羽織ってみました。

午前10時の待ち合わせ。
バレンタインの翌日に彼から来たメールにあったのは、今日のデートの約束でした。

お付き合いを始めた頃に、彼の週に一度の定休日が平日から日曜日に変わりわたしたちの逢瀬は夜に限定されておりました。
「お泊まりは無理でも、いつか一緒にお出かけがしてみたいわ。」
彼に抱きしめられ満ち足りたベッドの上で、そんな言葉をつぶやいたのは半年以上前のことでした。

美味しいチョコレートありがとう。
昨夜はあのチョコのせいかな、祥子の顔がちらついて寝不足になったよ(笑)。
ホワイト・デーには早いけど、今度の土曜日時間がとれないか?
東京駅の八重洲中央改札口に午前10時に待ち合わせよう。


どこへ行くかも、なにをするつもりなのかもそのメールには書かれていませんでした。でも、はじめてのお昼のデートがうれしくて「わかりました」とだけ返信したのです。
待ち合わせまでもうあまり時間がありません。
わたくしは足早に駅へと向かいました。

「行くよ。」
彼から手渡された切符を手に、言われるままに新幹線ホームへと向かいました。
ホームを導かれるままに進行方向へ。驚いたように見つめるわたくしに彼は悪戯っぽく「ちょっとだけの贅沢だよ。」と微笑むのです。
滑り込んで来た車両にそのまま押し込まれて、ひかり407号の二人掛けの席に腰を落ち着けたのです。
「どこへいくの?」
「内緒♪」
「切符は熱海までになってるけど。」
「し~っ♪」
土曜日の午前中の新幹線。なのにその車両にはビジネスマン風の方達しかおりません。
ふたりの話が周りに聞こえてしまいそうで、わたくしは彼の静止のままに黙り込むしかありませんでした。
膝に掛けたコートの下で、待ちかねたように彼の手がわたくしの右手を握りしめます。
「無理して休みを取らせた?」
「ふふふ ちょっとだけね。」
「ごめん。どうしても祥子と行きたくなってね。」
「どこに?」
「内緒だって言っただろう。ちょっと寝かせてくれ。祥子のせいで寝不足なんだ。」
熱海までの40分ほどの間、彼の肩に預けた頭の耳元に囁くように交された会話はこれだけでした。
いつしか彼は本当に軽い寝息を立てていたからです。

熱海からは踊子号に乗り換えて・・・
たどり着いたのは河津駅でした。
駅前は河津桜祭りのポスターや看板がにぎやかに飾られていました。
彼は躊躇なく駅前ロータリーのタクシーに乗り込みます。
「もしかして、河津桜を見せてくれるの?」
「内緒。運転手さん、近くて申し訳ないんですが、飯田さんの家に行ってもらえますか?」
ここまで来ても教えてくれません。それに飯田さんって誰?
「わかりました。」
運転手さんもその一言で車を走らせるのです。
駅前から続く桜並木は、二分咲きの風情です。わたしたちの車とは逆方向になるその路に多くの観光客が流れてゆくのが見えました。
???な顔をしているわたくしを余所に、人なつこい運転手さんは彼に話しかけはじめました。
「お客さん、詳しいですね。」
「いや、それほどでもないけどね。」
なんのこと??
「今年は雪のせいで遅れてるんですよ。飯田さん家のがやっぱり一番早いからね。」
桜じゃないの?? 
「そうですか。」
「ほら、着いたよ。」

「わぁ~」
車から降りたそこには、1本の大きな桜の樹。
バレンタインの今なのに・・・もう5分咲きほどになっていました。
飯田さんちの桜

「祥子は桜が好きだって言ってたろう。今年一番最初の桜を一緒に見たくてね。でも、雪のせいで盛りはまだみたいだね。」
タクシーから降りた彼がわたくしの手を握りしめてそう話し始めました。
「満開じゃなくてもきれい。うれしいわ。」
「この木はね、河津桜の原木だって言われてるんだよ。一番古くて大きいんだろうね。いつも一番最初に満開になる。」
「前にも来た事があるの?」
誰と?っていう言葉は・・・とっさに飲み込みました。
「前の仕事を辞めて、いまの仕事に就く間少し遊んでたことがあって、その時にここの桜を見たんだ。びっくりした。最初はね、花には疎かったからへんな梅の花だなくらいにしか思ってなかったんだ。」
「梅と間違えたの?」
「ははは、恥ずかしながらね。で、ここでこうして見上げてたら、地元の人に今年最初の桜は綺麗だろうって声を掛けられてびっくりした。で、調べて、仕事で迷いが出るとこうしてこの桜に会いに来るんだ。」
わたくしに語りかけているのに彼の眼はじっと5分咲きのその桜を見つめていたのです。

「お仕事、大変?」
「いや、ちょっとね。」
あまり二人の時間を取る事もできない理由は・・・
絡めた指をわたくしは少し強く握り返したのです。
「ありがとう。いつも祥子にはわがままばかり言っている気がする。」
「ううん、そんなこと。それに戦う男の人にはそういう相手が必要なものよ。」
「ははは そうだね。」
風が・・・たった一本の河津桜の枝を揺らします。
「いつか、満開の桜を見に来ような。」
「ええ。」
「さ、旨い伊豆の魚でも食べに行くか。」
「他の桜は見なくていいの?桜祭りで、沢山の花を見られるんでしょう?」
「いいんだよ。俺にはこの桜があればいい。祥子と一緒だよ。」

飯田さんちの桜満開


5分咲きの桜の向こうに透けて見える春色の空が、ほんのり色づいたように見えました。

ひいなの午後

「おひとりですか?」
ショーウインドウをじっと見つめていたわたくしに声を掛けたのは、40代後半の紳士でした。仕立ての良いカシミアのコートとストール。チョコレートブラウンの革の手袋は足許のショートブーツと同じ色で揃えられて、その方の趣味の良さを感じさせました。
「ええ あっ、ごめんなさい。これをご覧になりたかったんですね。独り占めしててごめんなさい。」
「いえ、そういう訳ではないんです。」
引き止めるような視線を向けたその方に、わたくしは<どうして?>というように軽く首を傾げたのです。
「ご覧になっていたのは、そのお内裏様ですか?」
「ええ」

わたくしが視線を釘付けにされていたのは、陶器のひな人形でした。
両手の上に乗るくらいの小さなちいさなお内裏とお雛様。いわゆる形式化された日本人形のおひなさまと違って、生身の人間が身に付けた時と同じように広がる十二単のフォルムに心惹かれて、ついじっと見つめてしまっていたのです。

「お嬢様のためですか?それとも二つ目のおひな様に?」
「ふふふ どちらでもありませんの。」
「えっ」
「子供がおりませんの。それに今では独りですし。ですから、お雛様を求める資格を持っておりませんのよ、わたくし。」
「あっ、失礼なことを。申し訳ありません。実は私は・・・」
いつの間にか向かい合うように立っていたその紳士は、流れるような手つきでコートの内ポケットから名刺を取り出したのです。
ビジネスの時のように差し出されたその方の名刺には、お名前の他に京都の住所と代表取締役の肩書きが墨跡鮮やかに記されておりました。
「頂戴します。」
「その人形はうちの会社のものなんです。」
「あら、そうでしたか。それじゃ市場調査に? でも、あの標準語でらっしゃいますね。」
「私はこちらの出なんですよ。妻の実家が清水の窯元でして」
「そうだったんですか。ごめんなさいね、いいお客様じゃなくて。」
「ははは そんなつもりでお声を掛けた訳じゃないんです。」
名刺を手にしたわたくしを見つめていた瞳がふと椿柄の十二単のお雛様を振り返り、改めてわたくしの瞳を見て人形の感想を口にするようにこうおっしゃったのです。
「お茶でもいかがですか?」
そうでした。
この方は「お一人ですか?」と声を掛けてきたのです。
初対面の方とお茶・・・いつもなら理性がもっと警戒メッセージを鳴らすはずでした。なのに、あまりに率直なそのおっしゃりように、ご一緒してもいいという気持ちになっていたのです。
「わたくしでよろしければ。」
「あぁよかった。美味しい珈琲の店があるんです。」
「珈琲好きですわ。」
「すぐ近くです。」
先ほど立ち話をしていたときと同じ間合いで・・・その方はわたくしと歩き出しました。

「ひな人形がお好きなんですか?」
ビルの3階にある落ち着いた雰囲気のお店で、わたくし達は珈琲を楽しんでおりました。
お好きな席へどうぞ、と言われその方が選ばれたのは枝ものと季節の花を大胆に生けたオーバルの大きなテーブルの片隅でした。
「差し向かいじゃ緊張しちゃって」
照れたように口にするその方はまるで少年のようでした。

「子供のころ、人形は妹のものだったので。ぬいぐるみやフィギュアと言われるものにはあまり興味はないのですけれどお雛様だけはいつかは自分のものが欲しいなって思っていたんです。」
「人形が妹さんのものだとすると、加納さんのものはなんだったんですか?」
「ふふふ 本だったんです。平凡社の百科事典から世界文学全集まで。そのせいで、ちっとも可愛げのない子供に育ちました。」
「いえ、そうか そんな風に育てると加納さんみたいな素敵な女性になるんですね。」
「お世辞がお上手ね。でもお嬢さんがいらっしゃるなら、ちゃんといいお人形も差し上げないと。情緒がない子になっちゃいますわ。でも、大野さんのお宅でしたら素敵なお人形には事欠きませんわね。」
「そう思ってくれればいいんですけどね。」
お隣の席でその方は苦笑いのような表情を浮かべるのです。
「うちの人形では加納さんのお眼鏡にはかないませんでしたか?」
「いいえ 素敵ですね。わたくしはあの十二単のフォルムが好きなんです。桜の姫も素敵ですし椿の姫も雪輪の姫も、迷ってしまいますわ。」
「それだけですか?」
「それだけ?」
「十二単の柄で迷われたにしては、複雑な顔をしてご覧になっていたような気がしました。」

ひとりだと思って油断をしていたみたいです。
お雛様には、まだ人妻だったときの悲しい想い出がありました。
きっとそれが、顔に出ていたのでしょう。

「つまらないセンチメンタリズムです。結婚していたころに義理の姉のところにお雛様を贈ったことがあって、その時にわたくしも買いたいって夫に話したんです。」
「そうしたら?」
「義母が、子供も産まないうちからひな人形なんて買うもんじゃない。そんなことをしたがるからいつまでたっても石女なんだって。」
「・・・ひどい」
「大正の人ですから。いまは独りですからお雛様を買うくらい自由なんですけど、欲しくなって見に行くたびにその言葉が頭の中に聞こえて買えなくなっちゃうんです。」
「そうでしたか。」
苦い想いを飲み下すように、わたくしは目の前の珈琲に口をつけたのです。
「それと今年はもう一つ理由があって・・・」
「その理由は先ほどのような酷い理由ではなさそうですね。」
「お解りになりますか?」
「加納さんはご自分がどれほど表情が豊かなのか解ってないみたいですね。」
「いやだわ。初対面の方にこんなに顔を読まれるようじゃ、お仕事の時・・・」
「そんなことはないでしょう。きっと仕事の時はもっと厳しい眼光でライバルの視線なんか跳ね返してるはすだ。」
「さすがに社長さんですね。人をご覧になるのに長けてらっしゃるわ。」
「職業柄というよりも惚れた弱みかな。」
「ふふふ ほんとうにお上手だこと。」
「じゃぁそういうことにしておきましょう。 で、もう一つの理由はなんなんですか?」

どうしようかと思いました。
とっさの作り話くらいいくつでも思いついたからです。
でも・・・

「いまお付き合いしている方のお嬢さんたちのことを思い浮かべてしまったから。」
「・・・・あぁ やっぱり」
しばらくの間の後で、その方は胸にすとんと落ちるような声で呟かれたのです。
「まだ桃の節句を祝うような年頃のお嬢さんなんですね。」
「ええ」
「加納さんなら、不思議はないでしょう。本当に優しい方なんですね。」
「そんなこと。わがままなだけですわ。本当に優しければそんなお嬢さんを悲しませるようなことをしなければいいんですから。」
いや という風に大野さんは首を横に振られました。
「だとしたら、なにか訳があったのでしょう。」

「また暫くは、私のところで作ったお内裏様を加納さんには買ってはもらえそうもないですね。」
もう冷えてしまった珈琲を飲み干して、その方は立ち上がりました。
「ごめんなさい。こんなに美味しい珈琲までいただいたのに。」
「そんなことは気にしないでください。それじゃ、甘えついでに駅まで送っていただこうかな。」
「そのくらいでしたらお供いたしますわ。これから京都にお戻りですの?」
ボ~ン・ボ~ン・ボ~ン・・・扉を出るわたくし達の背中でお店の掛け時計が3時を告げていました。

「先ほどと違う出口?」
エレベーターで上がって来たのとは違う出口へすたすたと歩き出した大野さんのコートの背中をわたくしは追いかけたのです。
「こちらの方が駅に行くには近道なんですよ。」
「あっ・・・」
綴れ折りになった階段を2階まで降りた踊り場で急に腕を引かれ、倒れ込んだ大野さんの胸の中で・・・わたくしは唇を奪われていました。
「ん・・・ だ・・め・ぇ・・・・」
優しいのに力強い腕
しっとりとブルーマウンテンの香りの唇
わたくしの顎をつかみあげるしなやかな指
巧みに快感を引き出す舌先
「好き・・で・す・・・我慢・・でき・なか・・った」
喘ぐような声もすぐそこの大通りを走る車の騒音がわたくしの耳元より外には出さないようにかき消していたのです。二人の姿は・・・レンガづくりの階段の外壁にしっかりと守られていました。
「わかっているのに・・・いけず・・」
大野さんの唇が離れても、わたくしの身体がひとりで立てるだけの力を取り戻すまで数分が必要でした。
「これきりです。そう思ったら堪えられなかった。すま・」
わたくしはまだ震える人差し指を彼の唇に押し当てたのです。
「謝ったら許しません。そうでしょう?」
「あぁ そうだね。」
大野さんの深い瞳がじっとわたくしを見つめていました。

「そろそろ行かないと、新幹線に遅れますわ。」
「そうだね。送ってもらえるのかな。」
「ええ。最初で最後のお見送りですから。」
「ありがとう、急ごう。」

「手を出して」
改札に着いた時、大野さんは一つの小さな箱をわたくしの手にのせたのです。
「これ?」
「私からの今日のお礼だ。ずっとしまっておいても、壊して捨ててくれてもいい。あなたの手元に置いてくれ。じゃ、行くよ。」
「ありがとうございます。」
わたくしの最後の声に背中で答えて、その方はホームへ向かう階段へと消えてゆかれました。


手の中の箱には、いままで見た事のなかった見事な清水焼のひな人形がありました。
ほんの少しだけ・・・お雛様の表情が寂しげなのが印象的な一対です。
わたしはまだそのお雛様を飾る事ができません。でも、いつか・・・。
箱のまま香を薫きしめて、今年も大切にその人形はしまってあります。

春嵐の夜は明けて

待ち合わせた改札から地上に上がるエスカレーターの出口の人だまりで危なくなるほどの大雨がいつの間にか降っていました。
「たしかに雨になるとは言ってたけど。おい、雷もか。」
大きな傘を広げながら、彼は苦笑いをしていました。
真っ暗な空に走った閃光から数秒で雷鳴が轟きます。
「近いわね。早めに会場に入ってしまいましょう。」
「どっち?」
「その信号を左。」

ホワイト・デーの今夜の予定は、ジャズライブでした。
わたくしはもう数年前から月に一度隠れ家のようなホテルで開催されるライブに足を運んでいました。とはいえ・・・演奏も曲名もプレイヤーのことも、ほとんど知識などない素人ゲストでしたが(笑)。
彼もこの数年ジャズに興味を抱いて、あちこちのバーでのライブに足を運んでいたようです。男性らしくマニアックな知識を持つ彼は、ライブの後の土産話にずっとうずうずしていたようです。
「少し寂しいかもしれないけど、綺麗な音の面白い演奏をひっそりと楽しめるライブなの。」
というわたくしの誘いに、スケジュールを合わせてくれたのです。

「今夜は貸し切りかと思ったわ。」
「いやぁ、本当にそうかとおもってドキドキしてたんですが思ったより盛況になりそうです。」
にこにこと主催者の沢田さんが濡れた傘を受け取りいつもの席に案内をしてくれました。
「はじめてのお友達を連れてきたのに、このお天気なんですもの。」
「あいにくでしたね。」
「ええ。よろしくお願いします。」
彼の受付をしながら、ちらっとわたくしに視線を投げたのは・・・なぜなのでしょう。
「いつも女性のお友達とばかりなので、ホワイトデーの今夜はイケメンを連れてきましたの。」
「ははは、うちのアシスタントが喜びますよ。どうぞゆっくりなさっていってください。あと5分ほどで始まります。」

「いいね。こんなふうにのんびり聞けるんだ。」
日本でも有数の家具作家の手に成る一人掛けソファーに身を沈めた彼とワインのグラスを合わせます。
「有名どころのライブハウスなんかよりよっぽど音響もいいみたいよ。」
2階まで吹き抜けになったラウンジスペースを利用したライブ会場は、壁面のタイルと天井の構造が心地よく音を響かせてくれるのです。
「ふぅ~ん。それにしても、いろんな人に声を掛けられるね。」
「みんな常連さんよ。何度もお逢いしてるからでしょう。」
今日のプレーヤーの二人、ホテルのサービススタッフたち、次々お越しになるお客様の何人かが<こんばんは><お久しぶりです>といったご挨拶をしてゆかれただけです。
接客業に従事している彼が普段なら気にすることもないこんな些細な事に、やきもちを妬いてくれるのも、今夜がホワイト・デーだからでしょうか。(笑)
「隣に座ってるのは、誰?」
「祥子だよ。」
「それが答えでしょう。」
膝の上に置かれていた彼の手をさっと指先で触れた時、会場の照明が落とされました。

いつものライブよりも沢山のお客様があったと言いながらも、沢田さんはわたくしたちの席を他の方達から柱一本離れた場所に置いてくれていました。
とはいいながら、大人のライブ会場です。
演奏中にべたべたとしたはしたない振る舞いはできません。
それでも、即興の効いた演奏に思わず笑みをこぼしながら彼を見やると、彼も楽しげに笑っているのがなんとも言えず幸せな時間でした。

「庭に出てみないか?」
5曲ほど(なぜならアレンジに加えた曲をカウントすると何曲になるかはっきりしないくらいだったので(笑)の演奏のあとのブレイクタイムに彼はそういうと、受付から自分の傘を取ってきたのです。
「都心の真ん中にこの庭はいいね。」
雨は、ずいぶんと小降りになっていました。コートを羽織っただけで、彼はわたくしの手を取ると庭の奥の築山へと歩みを進めたのです。
「寒くない?」
「ちょっとね。でも我慢出来なくてね。」
雨に濡れたベンチの前で、コートごとわたくしを抱きしめると・・・彼のワインで火照った唇が重ねられたのです。
「ん・・ん・・ぁ・・」
蕩けるような快感が身内を駆け抜けてゆきます。
彼に応えることの出来ない今夜の身体の芯までも・・・・。
「俺以外の男と親しくしたお仕置きだ。」
「あぅっ そんな だめっ・・・」
耳元でそう低く囁くと、白いブラウスの胸元をはだけて胸元にきつく印を付けたのです。
「や・・・・」
「祥子は俺だけのものだ。」
「んふ・・っ・・・」

彼の大きな傘の中・・・20分ほどのブレイクタイムを、わたくしたちはそこで過ごしたのです。
照明の落とされたセカンドステージのはじめに、はしたなく頬を上気させたわたくしを連れて彼は席に戻りました。
セカンドステージ一曲目のTAKE5の間だけ、ふたりはひっそりと指を絡めていたのです。ブレイクタイムの余韻もさめやらぬまま・・・。


ゆうべの嵐が嘘のように晴れ渡った朝のバスルームで・・・くっきりと残る彼の印を見て・・・わたくしは一人・・・・・。
あぁぁぁ・・・・・

ボイスレコーダー

ねぇ・・・ だ・め・・っ・・・ あぁぁん・・ そんな・・ぁ・・
ゆるして・・・ あぁ・・・ そ・こっ・・
そんなに・・・お胸しちゃ・・・ぁ・・ だめ・・ぇぇぇ・・・
キ・スぅ・・・ キスもして・・ない・の・・に・・・
ぁぁん・・んくぅ・・・ ゃあ・・っ・・・・
ペチャ クチュ
ちがうの・ぉ・・・ あなた・・が・・する・か・らぁぁぁ・・・・
いつ・も・・・そ・・ぅ・・・ あぁぁ・・・ ちが・ぁぅぅぅ・・・
わたくしが・・・ はぁぁぁ・・ん・・・ いけ・な・い・のぉぉ・・・
あぁぁ・・・だ・め・・・ お・ゆび・ぃぃ・・いぃぃ・・のぉぉぉ・・
ピチュ クチュ クチャ
う・ぅぅ・・ん・・・ でも・・ぁ・・・おゆび・・で そんなにぃぃ・・・
す・き・・・ あなた・・・の・・す・き・・・
お・ゆびも・・・す・き・・な・・のぉぉ・・・・
あぁぁ・・・ ゆる・し・て・・・・ いっ・・ちゃ・うぅぅ
おゆびで・・・い・っちゃ・・・う・のぉぉぉ
ぁぁぁああああぁ・・・・ いぃぃ・・・・・
グチュ
あぁっ 
いって・・る・の・にぃぃぃ・・・・ しちゃ・だ・めぇぇぇ・・・
あぁあぁぁぁ・・・ おく・・ま・で・・・
そこ・・・ そこだめ・・・・
クチュ グチャ ピチュ
いい・・・・あなた・・が・・いぃの・・・
わたくしは・・・い・い?
ぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ また・・また・いっ・・・ちゃうわ・・・
わたくし・・ば・か・りぃ・・ぃぃ・・・・
あぁ・・・・ま・た・ぁぁぁ・・・・

っん・・・ほ・しぃ・・のぉぉ・・・・
あ・なた・・の・・・せいえきぃ・・ぃ・・・・
なかに・・・ちょう・だ・い・・ぃぃ・・・・
なか・に・・・まっしろ・・に・・し・て・・・ぇぇぇ・・・・
あっ あ あ・あっ・・・
いっちゃう・・・いい・・・・いっちゃうの・・・
あぁぁ・・・あな・た・・ぁぁぁぁ
いっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ




チュ♪ 好きよ