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21:00 1

夜の帳が降りたあとの美術館いらしたことがありますか?
最近は都内にも、ようやくそんな素敵な場所ができました。
わたくしのお気に入りの空間のひとつです。
遅い時間はお客様も少なくて、思うがままに好きな作品を堪能できるので・・・そう数ヶ月に一度はつい足を向けてしまうのです。
秋の長雨がつづいたあの夜もそうでした。
 
あの日は朝から霧のような雨が切れ間なく降っておりました。
傘をさすほどではないのに、数分歩くとしっとりと濡れてしまう・・・そんな雨でした。

一日をオフィスで過ごしたその日はゴールドのネックレスだけをアクセントに、細かいプリーツだけで構成されたベージュのワンピースを纏っておりました。
ランジェリーはアクセサリーに合わせて、ゴールドを思わせるサテンのセットを選びました。
シンプルなデザインのブラとパンティ。 
それに少し長めの・・・まるでそれすらもミニマムドレスのようなスリップ。 
ガーターベルトも同じ素材のシンプルなものでした。
雨を少し肌寒く感じたので、出がけにロング丈のトレンチコートを上に重ねたのです。
 
その日の展示はモノクロの写真でした。
6mの天高を有効に利用した展示室の中は、光と陰だけで表現された写真と同じミステリアスな空間に演出されていたのです。
高層ビルの最上階にあるこの美術館は、不思議な静寂に包まれておりました。
都心の喧噪もこのフロアまではたどりつけないのでしょう。
美術館を歩くわたくしのヒールの音さえ・・・響くように感じたのです。
 
来場者はこの時間ほとんどおりませんでした。
各展示室には影絵のようなスタッフが、作品のセキュリティのためにひっそりと座っているだけです。
順路通りに作品を見るのです。 遠く・近く・・・ゆっくりと・思う存分時間を掛けて。
最初に足を止めたのは見事なジオラマを映したシリーズの部屋でした。
レンズを通し印画紙に固定することで、フェイクをリアルに変えるという写真家のコンセプトに圧倒されて立ち尽くしていた時でした。
同じ展示室に他の方が入っていらしたのです。
重い足音はきっと男性なのでしょう。その足音がわたくしの隣で止まりました。
180cmはあるでしょうか・・・大きな方でした。
わたくしを一瞥することもなく、隣でじっと同じ写真をみつめていらっしゃるのです。
あぁ・・この写真がお気に召したのだわ、そう思い会釈をしてわたくしは次の展示室に移りました。
 
世界中のひたすら凪いだ海がいく枚もの写真に収められていました。
あの男性は、この部屋の展示コンセプトを読みふけっているわたくしの後を通り過ぎ、数十枚にもなる海の写真を順に御覧になっていました。
先ほどわたくしが感じた印象は間違いではなかったようです。
どんな方なのかしら・・・わたくしは展示場全体を見渡すふりをして、男性を後からさりげなく観察させていただいたのです。
短めに整えられた髪にワイヤーフレームの眼鏡。エディー・バウアーらしきチノパンにゴアテックスのジャケットを羽織っていました。
どちらかといえばワイルドな印象なのに、その横顔には理知的で繊細な雰囲気すら漂っていたのです。
男性は5枚目の写真で立ち止まっていました。
海と空の境目が光に溶けて、手前の凪いだ海の表面だけが僅かに陰影をつくる写真。
先ほどぐるりと展示場を見渡した時に最初に眼に止まった一枚でした。
わたくしは彼の少し後に立ちしばし写真を見つめました。
そして動かない彼をその場に残して次の写真へと歩を運んだのです。
 
次に男性のことを隣に感じたのはこの展示の中でただ1枚のカラー写真の前でした。
フェルメールの絵の世界を写真に再現した1枚は、その絵を知るものには驚きの1枚でした。
「きれいですね」 
男性の声がしました。
想像していたのと同じ、少し甘いでも太い男性の声でした。
周囲にはわたくししかおりません。
そして男性の眼はその写真だけを見つめておりました。
「ええ」 
わたくしはそう短く答えたのです。
 
その一言だけで動かない男性を置いて、次の展示室へ向かいました。
そこは照明を落とした中で、映像によるコンセプトを説明しているスペースです。
上映時間は10分程度。
会場にはわたくしだけ。ほかには誰も、美術館の職員の姿さえありませんでした。 
いくつかあるベンチにゆったりと腰を下ろし、きちんと着込んでいたトレンチコートをくつろげたのです。
 
流れる映像は実験的なそして美しいものでした。
でもわたくしの頭の中には、先ほどの男性のことしかありませんでした。
長身で大柄でわたくしの好きな威圧感に甘さをプラスした声。
なにをされている方なのだろう、平日の夜、スーツではなくカジュアルウェアで1人美術館に来る男性。
「私もカメラマンなのですよ」 
左側のベンチに男性が腰を下ろしました。

21:00 2

男性のことを考えて宙を泳いでいたわたくしの瞳は、かけられた声にようやく焦点を結びました。
「はい」 
少し間の抜けた声で答えてしまったようです。
「驚かせましたか。何度か同じ写真の前で立ち止まったので不審に思われたんじゃないかと思ったので、失礼しました」 
男性はふたりしかいないのに、美術館のルールに従って抑えた声で語りかけてくるのです。
「いえ、お好みが似ているのだなと思っていたのです」 
わたくしの声からは、抑えていても僅かにはにかみを含んだ華やかさが滲んでいたのかもしれません。
「お一人ですか?」 
男性の声から緊張が抜けてゆきます。
「ええ、美術館へはいつも1人ですの」 
偶然に同じ写真に惹かれて・・・少し興味を感じていた男性との、つかの間の会話にひきこまれておりました。
「きれいですね」 
正面のモニターに映る能舞台をみながら、男性は唐突にそう言うのです。
「先ほどの写真ですね。フェルメールの・・・」 
「いえ、あなたが」
「ご冗談を・・・ふふふ」 
真面目な声で冗談をいう方だと、左肩の上にある彼の横顔を見てみようとモニターから視線を移した時です。
「ん・・・んくっ・・」 
はじめてまっすぐわたくしを見つめた彼に、唇を奪われてしまったのです。
 
「んふっ・・やめ・て・・」 
他にだれもいないとはいえ・・・いつ誰がくるかわからない美術館の展示会場なのです。 お客様じゃなくてもキューレターがやってくるかもしれません。
「ん・・ぁ・・」 
力強い男性の右手に引き寄せられて、一度だけ舌を絡めると男性は唇を離しました。
 
「なぜ・・・ひど・い・・」 
急なキスで・・・わたくしの動悸はいつまでもおさまってくれません。
なのに、途切れがちになってしまう声さえも・・・周囲を意識してまだ・・・ひそめづつけてしまうのです。
「同じ感性を持つ好みのタイプの女性に逢えた、幸せな偶然に素直に従っただけです」
大きな肩を少し丸めるようにして、わたくしの耳元に甘い言葉を囁くのです。
「あなたもいやではなかったみたいですね」 
薄暗がりの中、男性の言葉にわたくしは耳まで紅く染めてしまいました。
ふいのキスに、わたくしの唇と舌は応えてしまっていたからです。
「や・・・ぁ・・」 
いつものロングヘアをアップにしているせいで、露になった耳に男性の息がかかるのです。
「この後ご一緒にいかがですか」 
男性はわたくしの返事を待つ事もなく手を取ると、腕をからめて次の展示場へと向かいました。

アシンメトリーな建築物のイメージパースを思わせる写真が並ぶ会場を、男性と共に歩きました。
わたくしの眼はそれらの見事な写真を、もう映してはいなかったのです。
男性が囁く様に耳元で聞かせる言葉が、わたくしの思考を奪っておりました。
「最初の展示室で、次の部屋に向かうあなたの後姿を見かけたんです」
「ジオラマの写真に心をうばわれているあなたは、とても魅力的でした」
「ハードなトレンチコート・アップにまとめた髪・ビジネスバッグを持った後姿なのに、とても女を感じさせたんです」
「ずっとあなたが見ていた写真は、私もいいと思ったものばかりでした」
「ベンチに座って鎧のようなトレンチコートの釦を外した姿を見て、我慢できなくなったんです」
「私の腕にあたるこの胸。ふふ、見てみたいものです」
「こんなに柔らかな髪に触れたのも久しぶりです」
「あなたは私が嫌いですか?」

展示場と展示場を繋ぐ照明を落とした通路に出た途端に、男性の逞しい腕で壁に押し付けられたのです。
そのままうつむくわたくしの唇をさぐるようにして、男性はふたたびキスを仕掛けてきたのです。
 
「ん・・んん・・はぁぅん」 
男性の右手はわたくしのアップにした髪を、左手は開いたトレンチコートの中の柔らかなワンピースに包まれた乳房をまさぐっておりました。
「・・だ・・め・・・んくっ・・」 
わたくしの唇を啄むようにして抗う声を抑えます。
舌先からはたばこの香りの唾液を注ぎこんでくるのです。
男性の大きな手にも余るGカップの乳房は、つぼを抑えた淫らな指先の動きに、輝くサテンのブラの中でさえ反応してしまいそうでした。
「ん・・・ぁ・・」 
くちびるを重ねたまま、男性はわたくしの髪を止めていたヘアクリップを外しました。
はら・・り・・・ 背の中程まである黒髪のロングヘアが、トレンチコートの背に落ちたのです。
「この方があなたには似合いますね」 
ヘアクリップをわたくしに手渡しながら男性は無邪気に微笑むのです。
「だめ・・人がくるわ」 
閉館まであまり時間がありません。
退館を急がされた他の来場者が、いつここを通るかわからないのです。
「あなたの身体はそうは言ってない」
「あぅっ・・・」 
男性の指ははしたなく立ち上がった乳首をつまみあげたのです。
「私と今夜過ごしてくださいませんか」 
「やめ・・て・・おねがい」 
長い髪をかき寄せ敏感な耳朶を甘噛みするのです。
「返事をしてください」 
男性の威圧感のある声は、わたくしの理性を従わせる力をもっていました。
「あぁぁ・・んっ」 
男性の左手がわたくしの乳房を・・・指の間に堅くなった先端をはさみこむようにしながら揉み込むのです。
男性を素敵だと思い始めていたわたくしの身体は、素直に彼の手と唇が送り込む快感に屈服してしまったのです。
「いかがですか」 
耳元にかかる熱い息に、わたくしは首を縦に振ってしまいました。
 
閉館まであと10分ほどでした。
「私の部屋がすぐ近くなのです。一緒にワインでもいかがですか」 
下りエレベーターに向かう通路で男性はそう提案をいたしました。
「ええ あなたがよろしければ」 
落ち着いた大人のカップルに見えたことでしょう 。
「よかった。それじゃそこで髪を整えて・・・そのワンピースを脱いで来てください。そのスリップも」 
男性はとんでもないことを言い出すのです。
それにどうしてわたくしのランジェリーがわかったのかしら。
「なにを・・いうの」
「ちょっとした冒険です。ふたりの夜を楽しむための、ね。そのコートをきちんと着ていればだれにもわかりませんよ」 
あの・・・声でわたくしに魔法をかけるのです。
「それにそのバッグならそのワンピースをしまってもおけるでしょう。閉館してしまいます。さ、待ってますから行って来てください」 
美術館の閉館間際の化粧室で、わたくしは髪を梳き・・・コートの下のワンピースとスリップを脱いだはしたない姿で、トレンチコートだけを羽織って男性の元に戻ったのです。

21:00 3

男性はわたくしからビジネスバッグを受け取ると、エレベーターホールまでその風貌には似合わない紳士的なエスコートをしてくださいました。
下り直通エレベーターには美術館スタッフが待っていました。
わたくしたちが最後の客だったようです。
軍服から派生したトレンチコート。
メンズ仕立てのハードなロングコートの下に、ランジェリーしか身に付けていない姿で、はじめて逢った男性と寄り添っている・・・
監視カメラを通して、もしかしたらこのスタッフはわたくしたちのことを見ていたかもしれない・・・そう思うだけで恥ずかしさに身体が震えました。
「ありがとうございます。お帰りはこちらです。またのご来館をお待ちします」 
端正な20代の男性スタッフの声に送られながら、エレベーターの中に逃げる様に乗り込みました。
なのに・・・
 
「コートの下を見せてください」 
男性はあの声でわたくしに言うのです。
「いや・・・」 
わたくしは子供のように首を振りました。
「釦を開けて前を広げるだけでいいですよ。さあ、一階に着いてしまうまえに。もう時間がありません」 
甘くて深いわたくしを従わせる声。
「それともここで私にコートを奪い取られたいですか?ランジェリーのまま私の部屋まで人通りの多い道を歩きますか?」 
決して頷くことのできない条件だけを、わたくしの前に並べたてるのです。
「あとどのくらいで到着してしまうのでしょう。さぁ、私は嘘はいいませんよ」
その一言にわたくしはコートの釦を5つ・・・自らの手で外したのです。
さらに・・・水鳥が羽を広げる様に、コートの前を彼に向かって広げたのです。
あまりの恥ずかしさに男性の眼を見ることなど出来ませんでした。
彼の眼に浮かんだ満足の表情に気づきさえしなかったのです。
チン・・・ エレベーターが一階に到着するサイン音に、わたくしはコートの前をあわてて閉じました。
つと寄り添った彼の大きな身体に抱かれるようにかばわれた時、エレベーターが開きました。
5つの釦のうち4つを辛うじて止められたわたくしは・・・美術館フロアのカフェで出されるシャンパンに酔ったかのような風情で男性に寄り添いながら・・・他のエレベーターを待つ数組のお客様の前を通り過ぎました。
「良くできました。素敵ですね、ゴールドのランジェリーとは。ははは 白い肌に良く映えていましたよ」 
「や・・ぁ・・」 
エレベーターホールから出たところで男性はそう囁くのです。
ほんの数秒。なのにカメラマンである彼の眼は、わたくしのはしたない姿を記憶してしまっていたのです。
 
裾に近い5つ目の最後の釦を止めようとした時です。
「だめです」 
「どうして・・・」 
足首までのロングトレンチとはいえ、釦の位置は通常の丈のものと変わりありません。5つ目の釦は、丁度足の付け根の上あたりにあったのです。
「お仕置きですよ。私が言ってすぐに従っていればその釦まできちんと止められたのです。逆らうから止められなかった、風が強く吹けばガーターベルトの留め具を晒してしまう、その姿のままで私の部屋までくるのです」
高層ビルの並ぶその場所には特有のビル風が吹いていました。雨はしとしととまだ降り続いています。 
片手を傘に、もう一方の手を彼に奪われて・・・風が裾を翻せば、わたくしのはしたない姿はなんなく晒されてしまうのです。
「ゆるし・・て」 
トレンチコートは幸い、その重い素材ゆえにそう簡単に翻ることはないでしょう。
でも、コートの下に身に付けているのはゴールドの輝きをもつランジェリーだけなのです。
サテンのガーターベルトで吊ったストッキングとブラとパンティだけ・・・いつも付けているスリップすらない・・・ことを思うと激しい羞恥がわたくしを襲うのです。
フロントフロアには警備スタッフと数人のお客様だけがおりました。
美術館内には持ち込めなかった傘を取りに、ロッカールームに向かいます。
入館口・退館口と2つの出入り口があるうす暗いスペースでした。
男性は自らの傘をまず取りにゆきました。
「あなたの傘はどちらに?」 
そしてわたくしの傘の場所まで、3つのブロックを移動したのです。
コートのポケットから鍵を取り出します。
身体を傾け奥にある傘を取ろうとしたときです。
「やめて・・だめ」 
男性の傘の柄がわたくしのコートの前裾を引き上げるのです。
「待っているのですから、早く傘をとってください」 
わたくしの右脚の・・・ガーターベルトに 吊られストッキングが横切る・・・太ももがパンティの下部まであらわに晒されてしまいます。
「・・ゃぁ・・」 
簡単な鍵なのに、恥ずかしさに手が滑ってなかなか開けることができないのです。
男性の傘の柄は、5つ目の釦の所から裾に向けてゆっくりと滑ってゆくのです。裾はしだいに大きく開いてゆきます。
「早くしてください。それともその魅力的な脚をもっと見せつけたいのですか?」 
かちゃっ・・・男性の声に煽られて、ようやくわたくしは自らの傘を手に出来ました。
「ぁん・・お待たせしました」 
傘の柄は止まり・・裾は元に戻されたのです。
もう美術館の中ではないのに、わたくしの声は密やかに・・・欲情にかすれてしまっておりました。
「さぁ行きましょう」 
男性はわたくしの手を取ると、美術館のドアを外へと向かいました。
 
ビルとビルの間は、とびとびではありますが雨よけのファサードが設けられているのです。
男性は傘をさすこともなくわたくしと手を組んだままで歩き出しました。
右手は男性にとられ・・・左手には傘を持ったままビル風が時折吹く中を歩くことになったのです。
「私は高梨といいます。なんとお呼びすればいいですか?」 
フェルメールの写真の前で声を掛けられた時と同じように、男性は前を見たままでした。
「祥子です」 
そう・・・名前さえまだ存じ上げていなかったのです。
「しょうこさん、ですね。似合っていますよ」 
ふふ・・含み笑いをもらします。
「私のことはそうですね、ネットで検索していただければわかると思いますよ。 いずれ興味がおありになれば、ね」 
高梨さんというカメラマンはそう言うのです。 
「祥子さんもそうでしょうけれど、私も社会的な立場もあります。安心してください」
わたくしは写真の世界には疎いのですが・・・それだけ有名な方なのでしょう。
「はい」 
嘘をついているとも思えない、わたくしがあらがえないあの声と、なによりも彼の存在感に・・・このひと時我が身を預けることを決めたのです。
  
男性は美術館から有名ブランドが並ぶ通りに向かっていました。
「ブランドにはあまり興味はないのですが、ショーケースのディスプレイは見ていて楽しめます。ほらここも」 
そう言って、イタリアのメンズブランドのディスプレイの前に立ち止まるのです。
センスの良い上質なスーツを、まるで書斎で寛いでいるかの様にディスプレイしたウインドウは・・・さすがに見事でした。
「そうですね。ここまでいけばディスプレイも作品ですわね」 
わたくしは答えましたが、それよりも時折強く吹くビル風に気が気ではありませんでした。
「さきほどのジオラマの写真のように撮ってみたらおもしろいかもしれません」 
真面目な顔でそういうのです。
その時強い風が吹き過ぎました。
「あっ・・・だめ」 
傘を持つわたくしの手は、翻るコートの裾を抑え切れなかったのです。
ストッキングの上の白いふとももの肌までが・・・露になってしまいました。
「いいですね。ガラスに映ったあなたのはしたない姿ごと、フィルムに残したいものです」 
夜景の中ショーケースのガラスは、わたくしの淫らなコート姿をありありと映していたのです。
「やぁぁ・・・・」 
翻る裾を抑え、男性の腕に縋る様にわたくしは顔を伏せてしまいました。

21:00 4

ブランドショップが切れるあたりでファサードもなくなります。
傘をさそうとするわたくしを制して男性は大きな傘をさしかけ、さきほどよりも強くわたくしを引き寄せたのです。
「部屋に帰る前にコーヒーでも買っていきましょう」 
すぐ先にはガラス張りのコーヒーショップがありました。
ドアを引き開けるとわたくしを先に入れ、傘を閉じて男性も入ってまいりました。
「僕はエスプレッソ・ダブルですが、祥子さんは?」 
彼の右肩は雨で濡れていました。
「わたくしも同じものを。ごめんなさい、濡れているわ」 
コートのポケットから出したハンカチで肩の雨を払おうといたしました。
「ははは 大丈夫です。ゴアテックスですから、中までは濡れないんですよ」 
それでもおとなしく肩を下げて、わたくしのするがままに任せていました。
「ここで掛けて待っていてください。すぐですから」 
通りに面したハイチェアのカウンターを指差します。
「コートの前を抑えたりしないで、わかっていますね。言うことを聞かなければ次の罰がまっていますよ」 
わたくしのバッグを置くふりをしながら、小声でそう付け加えるのです。
「すぐに戻りますから」 
あの声で明るくそう言うと、男性は椅子を引きそこに腰を座る様にと、わたくしを促すのです。
「・・・はい」 
わたくしはステップにハイヒールの右足を掛けると、身体を引き上げその椅子に腰掛けました。
「ぁっ・・・」 
高さのある椅子はコートの重みを、自然と左右に振り分けるのです。
ロングトレンチコートの裾はわたくしの両膝から滑り落ち、ストッキングに包まれた脚を露にしました。
それでも5つ目の釦が止められていたら・・・まだそれほどはしたない姿にはならなかったでしょう。
4つしか止まっていなかったために、ストッキングの上の白い太ももとストッキングを止める留め具までが・・・晒されていました。
コートの下に着ているとすれば、マイクロミニスカートにちがいない。上品そうな顔をした大人の女なのに、あんな部分まで晒して。あと少し・・・出し惜しみしないで見せろよ。
そう、見る男性に下びた想像をさせてしまうほどの淫らさが漂っていました。
幸いなことに外は雨が激しくなり、行き交う人がゆっくりとコーヒーショップのガラス張りのシートを眺めやる余裕をなくさせてはおりました。
ただわずかに数人の男性が、ふと眼に入ったわたくしの姿に気づき「本当か?」という顔をしてこちらをみつめるのです。
最初の通行人と眼があってしまってから、わたくしは顔を上げてはいられなくなりました。
とはいえ、眼を伏せればそこには露になった白い太ももの合わせ目が見えるのです。
ほんの数分のことのはずなのに、男性はなかなか戻ってこないように思えました。
どうしているのか気にはなるのですが・・・この姿のまま人が溢れる店内を振り返る勇気はありません。
きっちりと上半身をおおうトレンチコート。晒されているのは太ももの半ばから下だけ。
少し丈の短いスカートを身につけていたなら、パンティストッキングに覆われた脚を当たり前のように見せている・・・そんな場所なのに。身につけているのがランジェリーだけだというだけで・・・なんてはしたなくなってしまうのでしょう。
 
「お待たせ」 
戻ってらした男性の声がいたしました。太く落ち着いた甘い声に、わたくしはほっとした安心感さえ覚えてしまったのです。
「いいつけを守っていたみたいですね。祥子さん」 
テーブルの上のわたくしのバッグと、わきに掛けておいた傘を手にしながら、小声で付け足すのです。
「さぁ いきましょう」 
くちゅ・・・男性に手を取られて椅子から降りたわたくしのランジェリーの下から・・・はしたない音が漏れてしまいました。
 
大きめな男性の傘だけをさして、少し激しくなった雨のなか男性の部屋へ向かいました。
男性が<私の部屋>と言ってらしたのはレジデント棟16階にある一室でした。
エントランスを入り、2人きりでエレベーターにいる時も男性は紳士的でした。わたくしによりそい、わたくしの荷物を持ち黙ってエスコートしてくださったのです。

21:00 5

「どうぞ、靴のままで」 
その部屋は、多分・・・男性のオフィスとして使われている部屋のようでした。 
あまり生活感のないシンプルな部屋です。カーテンの開けられた窓からは、先ほど彼に声をかけられた美術館のあるビルが見えました。
「祥子さん、そこで濡れたコートを脱いでください」 
リビングとして使われている部屋の入り口には、コートスタンドがありました。
たしかにわたくしのコートは雨に濡れておりました。
男性が座っている白のキャンバス張りのソファーを、このままでは台無しにしてしまいます。
コートの下はスリップさえ着けていない・・・ランジェリー姿なのです。
「でも・・・おねがいです。何か羽織るものをいただけませんか」 
男性のシャツでもいいのです。このまま・・・ここでそんな姿でいなくてはいけないなんて・・・わたくしは考えてもいませんでした。
「この部屋は寒くはないはずですよ。さぁ」 
わたくしが逆らえない・・・あの落ち着いた声が響きます。
 
「自分ではできないんですか? 私がその釦をはずしてあげなくてはいけませんか、祥子さん」 
ゴアテックスのレインジャケットを脱いだ男性は、ネル地のシャツ姿でした。
ソファーから立ち上がるとゆっくりとこちらに歩いてまいりました。
「いや・・・」 
ヒールをはいて170センチを超えるわたくしよりも、なお大きい男性を前にうつむいたまま首を横に振りました。
「わかりました。後でお仕置きを覚悟してください」 
わたくしの前に立ちはだかった男性は、胸元から一つづつ釦を外してゆくのです。 
最後のダブル打ち合わせの内釦を外すなり・・・わたくしの肩から剥き下ろす様にコートの襟をはだけたのです。
「ん・・くっ・・・」 
抱きしめるようにしてコートを背中でひとまとめにすると、男性はふいにわたくしの唇をふさぎました。
「んん・・ん・・やぁん」 
縛められた様に両腕を後手にされ、ゴールドに輝くサテンのブラに包まれたGカップのバストを男性に差し出すような姿で、唇を貪られるのです。
「・・ぁは・・っく・んん」 
素肌に触れる男性のシャツの感触は、まるでやさしく愛撫するかのような暖かささえ感じさせたのです。
男性の唇は野性的なのに繊細で、わたくしの理性をすこしずつ奪ってゆくのです。
「ん・・美味しい唇。赤ワインが似合いそうですね」 
腕の力をゆるめると両腕からトレンチコートを抜き、無造作にコートスタンドにかけました。
男性の甘くて深い声に、わたくしはもう逆らえなくなっておりました。
「わかっていますね。そうです、その身体を隠さないでください」 
わたくしは両手を自然に体側にたらした姿をとらされました。
「きれいです。さきほどのエレベーターの中の残像よりももっと」 
男性はわたくしの周りを満足そうな表情を浮かべながらぐるりと回りました。
カメラマンとして美しいモデルの身体をたくさん見ているはずの男性の眼に、わたくしの身体がどう映っているのか・・・とても不安でした。
「熟した女性ならではの柔らかなラインと、この白くて肌理のこまかい肌。素敵ですよ、祥子さん」
 
シンプルなゴールドサテンのランジェリーは、一見水着を着ているかのようでした。
ただ違うのはその素材が薄く・・・美術館からつづく辱めに、堅く立ち上がった乳房の先端をくっきりと浮き立てていることでした。
ハイレグのパンティは慎ましくわたくしの秘めるべき場所を覆っておりましたが、サテンの輝きがその起伏を明らかにしておりました。
水着ではない証拠に、ガーターベルトはウエストを横切り、シャンパンベージュのストッキングを左右2カ所づつで吊り下げています。
そして足元はベージュに黒のポイントづかいのハイヒールが、そのままにされているのです。
「ゆるして・・・娼婦みたいな姿、いやです・・おねがい」 
ひそめる必要はもうないのに、わたくしの声はひそやかにかすれておりました。
「いえ、白い肌が映えてきれいですよ。」
わたくしの脇を通り抜けて背後につづくキッチンに男性は向かったようです。
羞恥に震え・・振り向くことも出来ずその場で立ち尽くしておりました。

「美術館ではじめて見かけたときからこの姿を堪能したかったのです。さあワインを楽しみましょう」 
戻って来た男性の手には、ムートンロートシルトのボトルとデキャンタとワイングラスが2つ握られておりました。
・・くちゅ・・・ちゅ 男性の手でランジェリー姿にされ立ち尽くしていた場所から、白いソファーまでほんの4・5歩でした。
なのに・・・わたくしの身体は淫らな音を隠すこともできないほどになっていたのです。
「ワインの薫りまで霞んでしまいそうなフェロモンですね、祥子さん」 
ソファーに先に腰をおろした男性は、わたくしを前に立たせてそう言うのです。
「やぁ・・・」 
グラスを並べワインとデキャンタをサイドテーブルに置く男性に、否定の言葉も出せずに・・・恥じらいの喘ぎで答えてしまいました。

「どれ」 
男性の長い腕がわたくしの腰を引き寄せると、指をふとももの合わせ目に差し入れるのです。
「あん・・・や・・だめ・ぇ・・」 
中指は折れ曲がり、パンティの裾をくぐってそのまま蜜を満たした狭間へとはいりこんだのです。
「こんなに濡らして」 
指を抜きわたくしの腰を解放いたします。
男性の眼の高さに差し上げられた中指は、蜂蜜の壷から引き抜いたばかりのように濡れ光っておりました。
「はじめての相手と、それもキスしかしていないのに、こんなになるんですね。祥子さんは」 
その指を舌を出してぺろっと見せつける様に舐めるのです。
「やめ・・て・・くださぃ」 
はしたない印をあらためて見せつけられ、薫りと味を確かめられる屈辱にわたくしはまた・・・淫らな愛液を溢れさせられてしまうのです。 
サテンのランジェリーは濡れるとわずかに色味を変えるのです。
微妙な色の違いを男性にさとられてしまわないか・・・気が気ではありませんでした。
「これではソファーを汚してしまいそうですね。困った女性だ」 
恥ずかしさに顔を伏せたわたくしを、いたずらっぽく光る男性の眼が覗き込むのです。
「ぃやぁ・・」 
顔を背けるだけで背にひろがっていた黒髪が、さら・・・と肩へこぼれかかります。
「ふふ、仕方ないですね。そこにお座りなさい」 
男性が指し示したのはソファーに座る彼の足元の<ラグ>でした。
わたくしは彼の足元にうずくまる獣のように、ソファーと同じオフホワイトの毛足のながいラグに横座りに腰をおろしたのです。
ヒールのパンプスを履いた足を投げ出して、わたくしは男性の膝にしどけなく上半身を預けて座っておりました。
室内の空調は適度に温められておりましたが、男性特有の少し高い体温を彼の脚はチノパン越しにわたくしの素肌に心地良く伝えておりました。

足元にわたくしを侍らせたまま、男性はポケットから出したソムリエナイフを器用に操ります。
ポッン・・・完璧に密閉されたボトルならではの軽快な音を一つ立てて、コルクが開けられました。
ワインの真紅に半ば染まったコルクをわたくしに差し出すのです。
そこからはムートンロートシルトならではの、スパイシーなブラックカラントの薫りがかすかに立ち上りました。
男性はゆっくりとデキャンタージュして、空気を含んだ赤ワインをグラスに注いで渡してくれました。
 
ガーネット・レッドの波が揺れるグラスを互いの目線に掲げた乾杯の後で、舌の上を転がす様にワインを味わうのです。
空気を含んだワインは、独特の渋味を上手に押さえ込んだ見事な味でした。
「おいしいわ とても」 
なかなか手に入れることの出来ないヴィンテージのワインの豊穣な味が、わたくしの警戒心をほぐす様にほんのりと酔わせておりました。
サイドテーブルの上で男性は手慣れた仕草でグラスをまわし・・・赤ワインを空気になじませます。
「これではまるで毛並のいいメス猫だね、祥子さん」 
ゆったりした左手の動きを止めることなくわたくしを見つめて言い放ちました。
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