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初雪 66

「失礼いたします」
後に回った望月さんは、わたくしのヒップの谷のはじまるあたりのすぐ上の釦から順に一つずつ・・・繊細なくるみ釦を留めてゆきました。
肩甲骨の真下で一旦手を留めると、今度は首にまわされたハイネックの襟の部分を留めてゆきます。
右に回ると右手首の5つの釦を、次いで左手を取り上げて同様にきっちりと袖の釦を留めたのです。
 
「この姿で過ごさなくてはならないの?」
ほつれかけた髪を直す望月さんに改めて問いかけたのです。
総レースの清楚なマリエ。
花嫁のための清純で犯すべからざる美しい衣装は、インナーに何も身に付けていない・・・ただそれだけのことで、淫らな責めの衣装へと趣きを変えておりました。
「お綺麗です、祥子様。これは山崎様からのプレゼントです。お気に召しましたか?」
確かにこの上なく上質なレースを使用した贅沢なドレスでした。
シルエットもわたくしの年齢に相応しく、華美な装飾のないシンプルなものです。あちこちに施されたパールをちりばめた刺繍も、上品な光沢を際立たせていたのです。きちんと本来の装い方をすれば・・・・ですが。
「・・・ええ」
ランジェリーとインナーのサテンドレスを欠いたいまの姿に、わたくしは白いシャツが似合う望月さんへ戸惑いがちな答えを鏡越しに返しただけでした。
「皆様がお待ちです。」 
わたくしの手を取るとエスコートをするようにドレッシングルームの扉を開け、そしてリビングへともう一つの扉を再び・・・開けたのです。

先ほどまでの享楽の宴の場だったリビングルームは、一転雰囲気を変えておりました。
天井の照明は程よく落とされ、あちこちにキャンドルが美しくともっておりました。低く流れるBGMはモーツァルトの魔笛のようです。
わたくしを包んでいた毛布も赤い縄も・・・そしてシェーバーのセットもなくなり、テーブルの上にはシルバーのアイスペールに入れられた白ワインとバカラのワイングラスだけが並んでおりました。
「やはり、マリエもお似合いですね」
白のピンタックシャツにオフホワイトのダブルのパンツをお召しの山崎さんが、立ち上がってソファーの中央にわたくしを迎えてくださったのです。
「ありがとうございます。素敵なドレスですね」
マリエが本来の衣装と違う趣きを醸し出していることを承知の上でも・・・わたくしは山崎さんに微笑みかけるしかありませんでした。
「今夜の祥子さんには一段と良く似合う」
スタンドカラーの白のシャツに白のコットンでしょうか。カジュアルにドレスダウンした石塚さんが、キッチンからオリーブの盛り合わせを手に戻っていらしたのです。
「乾杯は白のワインだな。望月」
白いウイングカラーのシャツの釦を3つ程開けた美貴さんが、わたくしの隣で望月さんに指示をするのです。
ソムリエナイフを腰ポケットから取り出した望月さんは、昨晩シェフがプレゼントしてくださった白ワインを手際良く開けていったのです。
「シャトー・クリマン、ね」
コック・・コッ・ック・・ 1998年のヴィンテージを記した端正なラベルが望月さんの手元に見えました。甘やかなフランスの貴腐ワインです。
「シェフはよっぽど祥子さんが気に入ったと見える。赤ワインの銘柄はなんだった?」
グラスを鼻先にくゆらせながら美貴さんは望月さんに問いかけます。
「同じ98年のシャトーマルゴーです」
それはとても美味しく手に入れにくい年のワインだったのです。
「これは近いうちにまた祥子さんをお連れしないとうるさそうだぞ」
石塚さんは、貴腐ワインの美しい色をバカラのクリスタルに透かせて楽しんでいました。
「ええ、そうですね」
苦笑しながら美貴さんが改めてグラスを取り上げました。

乾杯・・・目線に上げたグラスを下ろし、唇に流し込んだワインはまさに甘露でした。
「ああ、本当に美味しいですね。シェフは良くわかってる。今夜にぴったりなワインだ」
山崎さんがまた一口、味わうようにグラスを傾けました。
「昨晩の黒いドレスの祥子さんも綺麗だったが、白のドレスの祥子さんもほんとうに綺麗ですね。次は赤・・・いや、最初に逢った時に身に付けてらしたオペラピンクのドレスを僕がプレゼントしますよ。」
石塚さんは先ほどの行為で満足なさったのでしょうか。歌う様に語るとゆったりと1人がけのソファーに背を凭れかけさせたのです。
「このドレスは、やはりマリエだったんですね」
「ええ、今年うちの会社で新たなブランドを作るんですよ。その中で祥子さんに似合いそうなものを選んでみました」
「そんなに大事なもの・・・」
新ブランドを作る為のコストと努力・・・そしてその中でもたぶん上位にはいるほどの出来映えのドレスがどれほどの価値があるのか・・・わたくしには充分にわかっていたのです。
「祥子さんに着ていただけるなら惜しいものなんてありません」
きっと山崎さんが立案したプロジェクトなのでしょう。このクォリティなら成功は間違いない、そう思えました。
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コメント
こんばんは。
もう梅雨かと疑いたくなるような天気ですね。

この先の展開を熟成させるような、今晩の場面です。
外国のワインには全く無知なので、せっかく祥子さんが詳しく描いて下さっていても、猫に小判・・・いえ、猫のように可愛くないので、馬に念仏、豚に真珠です。(^^ゞ

祥子さんに素肌でマリエを選んだ山崎さん、ご自身も素晴らしいセンスの物を身に着けています。他の方々も・・・そんなものが似合う方のみが、祥子さんのお相手が出来るのでしょうか。あるいは、ある意味での結婚式なのでしょうか。

どちらにしても、ちょっと妬けますね。

(蛇足です)
モーツアルト・イヤーですね。早々と1月に「フィガロ」を見てきました。BGMの「魔笛」は夜の女王を歌うコロラツーラ・ソプラノの出来次第なので、高いチケット代も絡んで、いつも二の足を踏んでいます。

2006/05/18 20:08| URL | masterblue  [Edit]
台風接近
いつも楽しんで読ませていただいています。
私も観劇はすきです。でも、オペラはまだありません。
一度、行ってみたいです。

(上海の様子)
昨夜から雨が降り出し、夕方から風も強くなってきました。
タクシーもなかなか捕まらない状態で、歩いて帰宅しましたが、
びしょびしょになりました。

2006/05/18 21:38| URL | yamatan  [Edit]
それにしても、梅雨のような毎日、身体がしけってしまいそう。
もう、紫露草が鮮やかに咲いていました。

オペラもマリエも私も関わりのあることなのですが…。
いつもながら、様々なシチュエーションの細かなディティール。
祥子さんの各方面への博識にただただ感心。
こんな形で、もてなして下さる男性方…、憧れます。

2006/05/18 23:04| URL | るり  [Edit]
雨の名前を・・・
これからは雨の名を沢山呼ぶ時期がやってくるのでしょうね。
どれほどの名があるのか・・・この季節に調べてみるのも一興かもしれません。

masterblue様
合唱を嗜まれるmasterblue様にとってはオペラも近しい存在ですね。
フィガロは素晴らしい舞台だったと伺っております。
魔笛はわたくしもまだCDやレコードでしか楽しんだ事がないのです。
ぜひ一度・・・と思っています。

男性のファッションは、描くのが難しいですね。
ですから、masterblue様のような男性にお褒めいただくと
我が事の様に嬉しくなってしまいます。
ありがとうございます♪


yamatan様
そんなに激しい雨でしたか・・・
もう随分暖かな雨だと思いますが、
しっかり暖まっていただいてお風邪など召されませんように。

オペラもミュージカルも、楽しむ視点は同じだとおもいます。
オペラというとちょっと壁が高いような気がしてしまいますが(笑)
yamatan様ならきっと心から楽しんでいただけると思いますわ。


るり様
いつもお書きいただくコメントに季節のお花の便りに触れていてくださって
わたくしはるり様のコメントを読ませていただいた後で
あぁここの花も綺麗に咲いていると発見することが多くなりました。
とても楽しみに、うれしく待っております♪

男性の心づくしはうれしいものですね。
飲み物やベッドだけでなく、ファッションやアクセサリーにまで気の配れる男性
こんな方達が増えてくださったらいいですね♪

2006/05/18 23:53| URL | 祥子  [Edit]
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2006/05/19 22:15| |   [Edit]
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