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女性運転手 結城 3




「お先に失礼します。」
ぴょこん、といった感じに頭を下げて私の前を歩いていったのは今年の新入社員の・・・なんといったかな・・あぁ、結城くんだ。
アパレルに入社する専門学校出の女の子にしては飾り気はないが、彼女の清々しい態度には好感が持てた。
たしか、いま百貨店部で一番力を入れているブランドに配属したと人事部長が言っていた。なかなかセンスがいい、いち早く戦力として活用するにはあそこが一番でしょう、そうブランドデザイナーも太鼓判を押したらしい。

アパレルに就職する。
一見華やかに見えるが、実は地味で濃やかな神経と、根気とセンスが必要な、神経の参る職場でもある。数ミリのパターン上のラインの違いが、売れ行きを左右することさえある。
私自身にはものづくりのセンスはなかったから、父の意向もあってずっと営業畑でやってきた。が、優秀なデザイナーと同じくらい、優秀なパタンナーはなによりも代え難い会社の宝だということは、経営陣に加わったいま何よりも実感していた。
彼女があの素直さのままに育ってくれたら、とすっと伸びた細い脚をまっすぐに出して歩いてゆく後姿を見送った。

その彼女の表情が、少しずつ堅くなってきたのは、入社3ヶ月を過ぎたころだろうか。SSシーズンのマスター・パターンをどのブランドでも起こしはじめる時期だった。
エレベーターや、彼女のブランドのあるフロアですれ違うと必ず微笑んで挨拶をしてくれていた子だったのに、全く笑顔を見せなくなってきた。俯いたまま、気付かずに私の前を通り過ぎたこともある。
生産部門の新入社員のことだ。越権行為であることを承知で、私はとうとうブランドのチーフ・デザイナーをランチに誘ったのだ。

「山崎専務がお昼に誘ってくださるなんて、珍しいですね。どうした風の吹き回しですか?」
ストイックな黒の装いが、チーフ・デザイナーの彼女にはぴったり似合っていた。胸のペンダントは・・・翡翠らしい。
「そんな風に言われるとは心外だなぁ。そんなに久しぶりでしたか、お食事をご一緒するのは。」
「ええ。専務になられて間がないのですから、お忙しいのはわかってますがたまにはこうしてご一緒してくださいな。」
「ははは、心がけておきましょう。」
私はどちらかといえば現場派だったから、百貨店部長をしているときはときどきブランドのデザイナーやパタンナーたちと飲みにも行っていた。いいものを彼女たちに創ってもらうのが、成績を上げる最短距離だったからだ。
目の前の彼女は、うちの叩き上げだ。私が平の営業マン、彼女がアシスタント・デザイナーの時代から気さくに声を掛け合ってきた仲だった。
「それで、何が聞きたいの?」
ずばっと切り込むのも、彼女らしい。私も率直に聞く事にした。
「新入社員の結城くん。なにかあったのか?」
彼女の表情が一瞬引き締まった。やはり・・・なにかあったらしい。
「山崎さんの眼にもわかりましたか。」
「いや、ちょっと気になってね。」
「実は・・・・」

チーフ・デザイナーが話してくれたのは、うちの職場ではありがちなことだった。
結城くんが配属されたブランドのパターンルームも、5名いる先輩パタンナーは全て女性だった。なにせ一番売れているブランドだから、展開アイテム数も多い。当然全員が忙しく、猫の手も借りたいほどだった。
そんな部門にきた新人は仕事の勘も良く、先輩たちに可愛がられていたらしい。
「でもね、そんなことばかりさせるにはもったいなかったのよ、結城さんのセンスはね。」
うちは実力主義だ。どの部門もどの職種も能力があるとわかれば、入社年次に関係なく仕事はさせる。猫の手でも借りたいと思ったチーフ・デザイナーは、異例とは承知の上で来春の新商品のうち、5アイテムのマスター・パターンを彼女に引かせることにしたという。
「よかったわよ、彼女の仕事。天性のセンスを感じたわ。それに新人だから、指摘したことも素直に直すでしょう。幾度かだめだしをするうちには、自分の実績を信じてなかなか出来上がったパターンに手を加えないベテラン・パタンナーのものより格段に完成度の高いパターンを引ける様になったのよ。」
そのブランドでは入社して半年はまずCADに触る事もできない、のが普通だった。
結城くんも最初の1月はほとんどそんな状態だったらしい。
たまたま、先輩社員の一人がインフルエンザと酷い花粉症でダウンし、どうしても急いで直さなければならないパターンが出たのがきっかけだった。今日中に出荷しなくては工場のラインにのせられない。先輩パタンナーが全員帰ってしまったあとで、彼女はチーフデザイナーの目の前で、その能力を披瀝することになった。
ただ、一度の偶然の出来事が結城くんにチャンスを与え、彼女はモノにしたわけだ。

「そのうえね、彼女の引いたパターンのアイテムの発注数が図抜けていたのよ。デザインをし、サンプルを作った商品が全部店頭に並ぶ訳じゃないのは、山崎専務ならよくご存知でしょう。」
「ああ、各百貨店のショップマスターやバイヤーの意向もあるからね。」
「スーツみたいな定番のものは、もうラインの説明なんかする必要も無いベテランがいるから彼女にはさせなかったの。引かせたのは、ワンピースばかり5点。いつものシーズンなら2・3点が残ればいいところなんだけど、なんと5点とも発注が付いてしまったわけ。」
「そうか・・・。」
チーフ・デザイナーとしても、百貨店部を統括する私の身にしてもそれは褒められこそすれ、何の問題もないことだった。それほどのセンスがあるのなら、来期はもっと沢山結城くんに仕事を任せたいと考えるのが普通だろう。
「でもね、それが先輩のパタンナー達には面白くなかったのでしょうね。ただでさえ、普通なら使い走りしかさせない時期にCADは与えるは、マスター・パターンを引かせるわ。あげくの果ては、いつも自分たちが手掛けても半分も残らないワンピースが全アイテム発注されるわ。で、なんで・・・と彼女を問いつめたそうよ。」
結城くんは素直に初めてCADを触った経緯から、全て問いつめるままに話したらしい。それを聞いた先輩達は、チーフ・デザイナーの依怙贔屓と、先輩デザイナーの仕事を横取りした新人だと・・・結城くんのことを決めつけたそうだ。

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コメント
祥子様

おはようございます。
どこの世界にもある事ですね。
良く出来る新人・・・そこで先輩達は自分を見直す機会にすればいいのに・・・やっかみ。
桜草も気をつけなければ・・・って。

ちょっとエロっぽくないコメントでした。

2006/07/16 08:33| URL | 桜草  [Edit]
祥子さん、お早うございます。
ご無沙汰した間に、ジューンブライドが終わっていました。テンプレートも変わっていました。
ちょっとびっくり。

ジューンブライド、これからの森本さんとの、ちょっと危なそうな関係を予感させますね。

結城さんの正体、ワクワクして読み始めました。
女性の世界は難しいようですね。
幸か不幸か私の職場は、組織も無い小さなところで、みんな一匹子羊という感じです。おとなしくしています。

「初雪」では、舞台の外に追いやられた結城さんですが、どうぞスポットライトを当てて、魅力を引き出してやってください。

2006/07/16 08:45| URL | masterblue  [Edit]
暑さが一気に押し寄せたようですね。
そして曇天は去らないまま。
同じ暑さでも早くすっきりとした青い空を見たいと、つい願ってしまいます。

桜草様
先輩との関係は難しいですね。
特に女性の職場は、本当に・・・。
仕事自体が劣っていてトラブルならわかるのですが
評価とか待遇でトラブルになるのですからね。
自分が若かった時の辛さ・哀しさを
できれば後輩には味合わせたくないですね♪

masterblue様
お久しぶりでございます。
ジューン・ブライド、お楽しみいただけたようでほっとしております。
森本さんとは、もとの仲の良いただのお友達に戻りたいのですけれど
無理でしょうかしら・・・。

テンプレートは、ジューン・ブライドが終わったら変えようと思っておりました。
祥子風Summer Styleといったところでしょうか。
はじめてお借りしたテンプレートに手を加えるなんてこともしてみました。

結城さんとお付き合いいただく3連休を計画しております。
サイドストーリーですが、同時に山崎さんの日常もほんの少し感じていただくことも出来そうです。

2006/07/16 09:36| URL | 祥子  [Edit]
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