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女性運転手 結城 7




「結城さんには、はしたないところばかりお見せしたみたいで、申し訳なくて。」
「いえ、それは祥子さんのせいじゃないです。気にしないでください。」
「もう、お逢い出来ないわね。」
お聞きした年齢は想像通りでした。
彼女の態度、彼女の表情・・・山崎さんを好きだと言っていたあの潔癖な視線はわたくしを許してはくれないかもしれません。
「結城くんもプロの運転手のはしくれです。帰り道に美貴や石塚さんとした話もきちんと聞いてましたから、誤解なんてしてません。」
別荘からの帰り道・・・この方達は彼女を前にどんなことをお話になったのでしょう。
「そんなに、結城くんのことを気にするなんて、祥子さんは女性にも興味があるんですか?」
悪戯めいた表情で山崎さんがわたくしを茶化すんです。
「そんなこと。」
「望月くんの例もありますからね。僕と石塚さんが知らないうちにいつの間にか仲よくなっていて妬けましたよ。」
「もう、そんなんじゃないです。いやだわ、山崎さんたら。」
わたくしは・・・思わず頬を染めてしまったのです。
あの帰り道、望月さんと二人きりで過ごした時間のことを思い出して。
「あんな素直で潔癖そうなお嬢さんだったから、どんな方なのか知りたかっただけです。可愛そうなことをしたわ。」
「祥子さんはやさしいですね。」
カウンターの上のテキーラはもう終わっていました。
思わぬ雨宿り・・・わたくしは、今夜は少し飲み過ぎているようです。

「お送りしますよ。それまで、なにか軽いものを。」
手を上げた山崎さんにマスターが応えられます。
「そうですね、ミントジュレップなどいかがですか。今夜は蒸す様ですから、さっぱりといたしますよ。」
「ええ、それを2つ。それからタクシーを呼んでください。」
「承知いたしました。」

「あの・・・。」
結城さんのお話をうかがったこんな夜。わたくしは山崎さんが望まれても肌を交わす気にはなれませんでした。
「心配しなくてもいいですよ、祥子さん。今夜はまっすぐにお送りします。僕もちょっと飲み過ぎたみたいです。せっかく逢えたのに、残念ですけれど。」
山崎さんは、紳士的な表情のままでそう仰って下さったのです。
「ありがとうございます。」
「いえ、祥子さんとお逢い出来ただけでうれしいですよ。そのかわり、今度は僕だけに祥子さんを招待する機会を作って下さい。ふたりきりで、どこか・・・のんびりしたところで過ごしましょう。」
「ええ、お時間が許せば。」
カウンターの上に置かれたわたくしの左手に重ねられた山崎さんの手のひらは、いつものように・・・すべらかでした。




社員の・・・とは言っても全員ではないが、秘書や運転手といった日頃心を砕いてくれるスタッフの誕生日には、ほんのわずかだがお祝いをすることにしている。
花を贈る事もあれば、好みのバッグやアクセサリーをプレゼントすることも、家族で夕食ができるようにレストランを予約しておくこともある。

去年の誕生日には、フォーミュラー日本の開幕戦のチケットをプレゼントした。
今年の結城くんの誕生日。正月のこともあったので少し奮発しようと、自宅へ帰る車の中で本人に聞いてみたのだ。
「今年の誕生日は、結城くんの好きなものをプレゼントしてあげるよ。何が欲しい?」
「何でもいいですか?」
深夜の都内の幹線道路をスムーズに大型車をパスしながら、彼女が言った。
「君には随分無理も言ってるからね。なんでもいいよ。」
何かを・・・考えているように彼女からは返事がない。
「よく、考えたらいい、決めたら教えてくれ。」

「あの・・・」
自宅マンションの車寄せに着いた。いつもなら、そのままドアを開けて見送ってくれる彼女が、フロントガラスを見つめたままで想い定めたように口を開いた。
「ん?決めたのかい。」
「わたしを抱いてくれませんか。・・・女に・・・してください。」
いつも小気味良く話す彼女の声とは思えないほど、小さく震えた声だった。
「だいて・・・ください。」

「結城くん。このことは聞かなかったことにするよ。君は大事な社員で優秀な運転手だ。わかるね。プレゼントは私が選んで届けよう。」
リアシートのドアを開けた。
「明日の朝もいつもの時間だ。よろしく頼む。」
「失礼します。」
振り返ることなく、車を降りドアを閉めた。
結城くんが私をこんな風に思っているとは、想像もできなかった。
これ以上彼女の気持ちを動揺させるわけにはいかない、明日からは今まで以上に上司として結城くんに接することにしよう。
いつか、彼女に相応しい優しい恋人が現れればすぐに忘れてしまうだろうからな。





恥ずかしかった。あんなこと言わなきゃよかった。

でも、あの「祥子さん」に負けたくなかった。
専務があの人に本気なのは、お正月の帰りの車の会話でも、あの後何度もお送りした美貴様や石塚様とのお話でもわかっていた。
あんなこと・・・少なくとも石塚様ともいやらしいことを平気でするような女なのに。
それでも、専務は「祥子さん」しか見えてないんだ。
前はときどき銀座のママを一緒に送ったこともあるけど、ある時からぱったりそういうことをしなくなった。あれも、きっと「祥子さん」が原因なんだ。

どうしよう。明日・・・。
でも、大事な社員だって・・・優秀な運転手だって言ってくれた。入社してからずっと困った時に助けてくれた専務の期待には応えなきゃ。





朝、私を迎えにきた結城くんは赤い目をしていた。
昨夜は眠れなかったのかもしれない。
今日は幸い終日本社で業務の予定だった。帰りは美貴と約束をしているから、望月くんが来てくれることになっている。彼女のことは早く帰してやろう。

私は昼に、結城くんへのプレゼントを買うとカードをつけて秘書に託した。
TOD'sのネイビーのドライビングシューズは彼女にきっと似合うだろう。

「お誕生日おめでとう。この一年、元気でがんばってください。 山崎」

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コメント
<結城さん>の物語。お楽しみいただけましたでしょうか。
当初は4話・・・連休に一日1話程度でお届け出来ると思っていたのですが、アップしてみたらなんと7話にもなってしまいました。

彼女の心の中に在った想い・・・応えることのできない山崎さん。
今日のお天気を映したようなちょっと切ないお話になってしまいました。

時には、こんなサイドストーリーもお届けしたいと思います。
気になるキャラがいたら、どうぞわたくしにそっと囁いてください。
こんな風に登場させてあげたいと思います♪

2006/07/17 15:56| URL | 祥子  [Edit]
 山崎さん!
\(`O´θ/エ~イ キックじゃ!バキッ!!☆/(x_x)θ

2006/07/17 17:04| URL | さやか  [Edit]
さやか様
でも、愛情もなくて・・・結城さんを抱く山崎さんでもいいですか?
ここできっぱりするのも、仕事上の部下である結城さんに対する一番誠意ある対応だと思うのです。
山崎さんにとっても、結城さんにとっても・・・切ない結末になってしまいました。(ごめんなさい)

2006/07/17 18:22| URL | 祥子  [Edit]
祥子様

確かに切ない結末ですね。
でも上司と部下・・・この先の仕事での関係を考えるとこれも仕方ありませんね。
山崎様にとっては大事な部下なのでしょうから・・・。

素敵なサイドストーリーでした。
気になるキャラですか・・・
今度祥子様に囁いてみます。

お疲れ様でした。

2006/07/17 19:13| URL | 桜草  [Edit]
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2006/07/17 19:15| |   [Edit]
桜草様
ありがとうございました。
msnで結城さんを初登場させた時、いちばん最初に彼女の魅力に気付いてくださったのは、桜草様でしたね。
あの時いただいた諸々のご質問への、お答えのつもりで書き上げました。
ご満足いただけましたでしょうか。

明日からは、桜草様がお待ちかねの<桜陰 hanakage>が登場です。
桜の季節の淫媚な一時。あのときを思い出して・・・どうぞお楽しみくださいませ。

2006/07/17 20:03| URL | 祥子  [Edit]
eromaniaなら結城さんのこと抱きしめるだろうな。
ぎゅっとね。でもそこまでだよね。その先は結城さんの好意を利用するだけの男に成り下がっちゃうから素敵じゃなくなっちゃうね。

もう少し結城さんのことが知りたかったな。
想いを吐き出すような更新(笑)、お疲れ様でした。


2006/07/17 20:43| URL | eromania  [Edit]
こんばんは。
どうやら涼しい北風が吹き込んできました。

結城さんは結局切ない思いのままでしたね。
またいつか、結城さんを舞台に上げてくださいね。

<桜陰 hanakage>どんな物語でしょう。楽しみです。

2006/07/17 20:52| URL | masterblue  [Edit]
良き上司であり続ける山崎さん。余計に結城さんの想いは募りそうですね…。
体調管理の出来にくい季節、私はすぐ喉や肩に来てしまいます。どうぞ祥子さんも、お気をつけながら…。
明日からの作品、楽しみにしています。

2006/07/17 20:58| URL | るり  [Edit]
今夜はエアコンなしで、ぐっすりと眠れそうです。
すゞやかな風が恋しい季節になってしまったみたいですね♪

eromania様
「彼女が車の外でドアを開けて見送ってくれた時に
 あんな風に言われたら・・・
 きっと、その肩を抱いてしまったかもしれませんね。」
後で、山崎さんが美貴さんにふと漏らした言葉だそうです。
その抱擁がどれほど残酷なことなのかをわかっていても、
あの山崎さんでも感情に流されそうになってしまうようです。

結城さん・・・魅力的なキャラクターのようですね。
そう、またいつか、どこかで彼女のことを語る日が来る事を祈っていてください。

masterblue様
大人になるために、必ず通る切ない想い。
その一つの門を彼女は通り抜けたようです。
いつか魅力的な女性に結城さんが成長したときに
山崎さんの口からその名が聞かれるのかもしれません。

<桜陰 hanakage>は高梨さんと過ごした、桜三昧な一日のお話です。
ストイックなまでのこの物語の後、爛漫な大人の世界をお楽しみに♪

るり様
そうですね。
想いは届かないのに、彼女の手には
専務からの贈り物が一つづつ増えてゆくんです。
それを幸せと思うか、切ないと嘆くかは・・・彼女の心一つでしょう。

るり様はお加減いかがですか。
なんとなく体調の優れないこの季節・・・わたくしも充分気をつけます。
るり様もどうかお大事になさってください。

2006/07/17 21:54| URL | 祥子  [Edit]
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