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唐紅 3

車が止まったのはフロント機能を持つ本館の前でした。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」 
上品な女将が、ひとりでわたくしたちを迎えてくれます。
「お世話になります」 
「よろしくおねがいいたします」 
「どうぞごゆっくり・・・」
言葉少なに挨拶する男性は上客の常連なのでしょう。
宿泊するというのにハンドバッグ一つのわたくしに不審な目を向けることもなく、微笑みかけてくれるのです。
 
「さ、こちらです」 
女将が案内してくれたのは、渓流の音が聞こえる最も奥まった離れでした。
「今夜はこちら一つでよろしいのですね」 
いつもは運転手用の控えの部屋もお願いするのでしょう。
「ええ、食事もこちらにお願いします」 
男性はそう答えて、座卓の置かれた部屋でジャケットを脱ぎました。
「お預かりいたします。お客様もどうぞ・・・」 
女将に声を掛けられて、わたくしも黒のジャケットの釦を外しました。
「女性の方にこうしていただくのって不思議な感じですね」 
ふふふ、女将がわたくしの背中で華やかな笑い声をたてるのです。
「お客様はおもてになるんですね、きっと」 
そういいながら引き戸になったクローゼットを開けてジャケットを仕舞うのです。
「そうなんですよ、女将。この人はとても魅力的なんでね」 
わたくしに座卓の向かいを指し示しながら、男性までがそのように言うのです。
「あらあら・・・わたくしはお邪魔みたいですね。本当でしたらお部屋をご案内するところですが」 
そういいながら女将は座卓の上の茶器を優雅に扱い、熱いお茶を入れてくださいました。
「こちらさまが十分にご存知ですので、お判りにならないことがございましたらフロントまでお電話くださいませ」 
畳に三つ指を突き深く一礼をすると、女将は衣擦れの音をさせて離れを去ってゆきました。

女将が入れてくださったのは甘みのある八女の玉露でした。
掌の器はほんのり暖かく、とろりとしたお茶は長時間のドライブで乾いていたのどを潤してくれたのです。
そのお部屋は二方が雪見障子になっておりました。
わたくしはライトアップされた庭を見ながら、ワイシャツ姿でくつろぐ男性と差し向かいに座って、まぁるく喉を落ちてゆくお茶の味をゆっくりと楽しんでおりました。
 
今夜の男性は・・・まだ紳士的なままでした。
「ここはね離れが四つありましてね、みんな趣きがちがうんですよ」 
女将が言っていた様に男性はここのことをとても良く知っているようでした。
「こんな佇まいですけれど、洋館もあるのですよ」 
飲み干された器を座卓の上の茶托に置きました。
「祥子さんには洋館が似合うと思ったのですけれど、せっかくの温泉ですからね。和室のここにさせてもらったのですよ」
 
わたくしは部屋に通されてからのことを思い出し、改めて部屋を見回しました。
灰白い漆喰の壁に長年いぶされたのであろう黒々とした柱が、時代を感じさせる造りでありながらモダンな印象を醸し出していました。
高い天井までの空間は繊細な欄間などではなく、きりだしたままのような梁が何本も横切っているのです。
青畳の上にはイサムノグチ氏の間接照明が行灯のように置かれ、白い壁・白い障子が最低限の照明の効果を高るように室内を明るくしていました。
 
「ここは水回りのほかに3部屋あるんです。」 
一方の全面の襖を視線で示して男性はそういいました。
 
玄関の開く音がします。
重いものを置く音がして、運転手が車からいくつかの荷物を下ろしてきたことがわかりました。
すっ・・・・ 別室の襖の開く音がします。
運転手は3間あるうちの一部屋にそれを持ち込むと、しばらくは出てきませんでした。

「珍しいでしょう、屋根は茅葺きなんです」 
闇に溶けるように高い天井を見上げると、そこは男性がいう通りの茅づくりでした。
「離れごとに露天風呂が用意されていますし、こんなつくりでも化粧室は最新式ですから快適です」 
座椅子に寛ぎわずかにネクタイをゆるめます。
「それにこの部屋のお風呂は川に面していますから、川風が気持ちいいですよ」
 
この部屋だけではなく宿そのものを何度か利用したことがある男性との話に夢中になっていたら、いつのまにか運転手が部屋に控えていました。
「こちらにいらっしゃればいいのに」 
運転を続け男性の荷物を運んで、いままで整理していたのでしょう。
 
「今夜は祥子さんは何もなさらなくていいのです」 
せめてお茶の一杯でも・・・と茶器に手を伸ばしたわたくしを男性は制するのです。
「お茶ぐらいよろしいでしょう?」 
わたくしをからかってらっしゃるのかと、向かいに座る男性に問いかけました。
「今夜は祥子さんのことは全て彼がお世話をいたします。彼に任せて、なさりたいことがあれば彼に命じてください」 
真顔で男性は答えるのです。
「運転手さんはあなたの部下かもしれません。でもわたくしの部下ではありませんわ、そんなことできません」 
無体なことを言う上司だこと・・・わたくしはそんな視線を運転手に投げました。
「ふふ 祥子さん。彼の望みなのですから聞いてあげてください、そうだろう?」 
最後の一言はわたくしにではなく運転手に向けたものでした。
「はい 祥子様。はじめて親しくさせていただくので不安もおありかと思いますが、どうか主の言う通りお世話をさせてください。お願いします」 
きちんと居住まいを正したまま肩幅に両手をついて礼をされるのです。
「そんな・・・」 
運転手の真意がわからなくて、わたくしは戸惑うしかありませんでした。
「お嫌ですか?」 
顔を上げた運転手の澄んだ目がわたくしを見つめます。
 
ドライバーズハットをかぶり白い手袋をいつもしていた彼は、主である男性とほとんど変わらない大柄な体格をしておりました。
声は落ち着いて、けして大きくはないのですが通るのです。
ふとしたほんの一言までも、わたくしの中にすとんと落としてゆくような声なのです。
男性とほぼ同じ年令なのだろうと勝手に思い込んでいたのですが、帽子と手袋を外した彼は30代の中程に見えました。
運転手の見つめ返す視線に力がこもります。
「嫌だなんて、そんなことはないです。ただ、そこまでしていただく理由がありませんもの」 
わたくしは、彼から目をそらせずにいました。
「理由は彼が望むからさ。祥子さん 叶えてやってほしい」 
男性にそう言われて・・・ようやくわたくしは こくん と頷きました。
「良かったな」 
「ありがとうございます」 
二人の声が同時にいたしました。
「お願い手を上げてください」 
改めて礼をする運転手に優しく声をかけることしか思いつけませんでした。
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