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唐紅 10

玄関には、ここに来るまでに履いていたパンプスも男性の革靴もありません。
白い鼻緒の雪駄と、赤い爪革をつけた下駄のようなミユールが置いてありました。
「ありがとうございます」
わたくしの白い足元は着物姿なのに足袋ではなくストッキングなのです。 
踏み石に足を下ろすわたくしに、手を添えてくれた男性に履物までの心遣いへの御礼を込めて申しました。
「ここの庭は部屋から見るだけじゃもったいないですからね」 
男性は玄関をあけると庭への小道を歩きだしました。
 
「ほんとうに着物がお似合いですね」 
白い小石を踏みながら男性が話はじめました。
「ありがとうございます。こんなに素敵なお着物まで・・・女将に借りてくださったのですね」 
さきほどからいつ切り出そうかと思っていたのです。
「いえ、彼は何も言いませんでしたか」 
不思議そうな顔で男性はそういうのです。
「ええ」 
事情が飲み込めないままわたくしは、なまなかな返事をするしかありません。
「女将のものじゃないんですよ、この着物は。もちろん僕のプレゼントでもない。僕が用意したのはその下に着てくださっているはずの深紅のランジェリーのセットだけです」
「えっ・・・それじゃ、これは?」 
こんな上質なものが女将のコレクションでも、この地位があるであろう男性のプレゼントでもないなんて、狐につままれているような気がしました。
 
「彼が祥子さんのためにご用意したんです」 
静かな声で男性はわたくしに告げたのです。
「そんな・・・彼のような若い男の方に用意できるようなものではないでしょう」 
趣味の良さといい仕立てといい、そう簡単に手に手にはいるものではなかったからです。
「彼はね、京都の呉服屋の息子なんですよ」 
言われてみれば僅かに運転手の言葉には、京言葉のイントネーションが混じっておりました。
「大学生のころは祇園で男衆のようなことをやってたみたいでね」  
芸・舞妓の置屋で、彼女たちの着物の着付けをするのが男性であること・・・そういった様々な裏方仕事をする人たちを<男衆ーおとこし>さんと呼ぶことを思い出しました。
言われてみれば彼の手際の良さ・・・不思議な着付けの仕上がり。
そう聞けば納得のゆくことばかりだったのです。
「・・・そうだったのですか。でも、こんなにしていただくなんて」 
理屈はわかっても、わたくしはまだ納得が出来た訳ではなかったのです。

建物を回り座敷から見えたライトアップされた桜の庭にたどり着きました。
部屋からでは気がつきませんでしたが、桜の樹の足元には上品な秋草の庭が設けられていて・・・ゆっくりと露天風呂のあたりまで回遊できるようになっていました。
 
「彼の前ではね。悔しいので褒めませんでしたけれど、いい趣味だ」 
庭を照らす照明の切れたあたりで男性は立ち止まり、わたくしに向き合いました。
「その血赤珊瑚のかんざしから履物まで、全て彼の見立てなんです」 
アップにした髪からつま先までを男性の視線が舐める様に動いてゆきます。
「先日 祥子さんを自宅までお送りしたあと、彼が密かに実家に頼んで手配をしていたようです。今日いらしたと連絡を受けて、急いで何かを積んでいるとは思っていたのですけれどね」 
一歩踏み出すとふいにわたくしの肩を抱きしめて・・・引き寄せます。
「あっ・・・」 
急に引き寄せられてバランスを崩したわたくしの身体は、男性の腕の中にすっぽりと抱きかかえられてしまったのです。
 
「良くお似合いです。僕は祥子さんがこんなに着物が似合うとは思ってなかった」 
男性の左手は背をたどり・・・帯下の腰へと・・・なめらかな友禅をなでてゆきます。
「うん、付けていてくださってるんですね。僕のプレゼントも」 
ガーターベルトを・・・留め具まで、そしてTバックの細いストラップとその狭間の白くまぁるいわたくしのヒップの感触を確かめる様に左手が動くのです。
「・・・ぃゃぁ・・・お座敷から・・・見られ・・ま・す・・・」 
右手で抱きしめられた上半身を離す事もできず、さきほどまで紳士的だった男性の淫らな仕草に身をよじる様にしてあらがうしかできません。
「ここは照明がないですから見えませんよ。それとも彼の視線が気になりますか?祥子さん。・・・妬けるな」 
 
「ん・・・あはぁぁ・・・」 
左手はもう確かめるような動きではなくて、明らかな愛撫に変わっていました。
「祥子さんには黒いドレスが似合うと思っていたのです。シルクニットの肌によりそう・・・ダナキャランあたりでしょうか、この次は僕がプレゼントしますよ」 
わたくしの下腹に押し付けられた彼の塊は、熱く堅く高ぶってまいりました。
「もちろんぴったりの黒のランジェリーと一緒に。今夜僕を満足させてください」 
男性の指がたっぷりと張るわたくしのヒップに、食い込む様にうごきます。
「あの夜みたいにね、祥子さん」
「やぁぁ・・・・」 
運転手が見ているかもしれない庭での艶戯に、静まりかけていた疼きにまた火をつけられてしまったのです。
舌の根元まで吸い上げられるような濃厚なキスを奪って、男性はようやく座敷に戻ることを許してくれました。
男性が好む・・・白い双膨の狭間にまで届きそうなほどきつく腰を握りしめ、堅くなった塊をわたくしの下腹にこすりつけるようにしながらのキスです。
「・・・・くぅぅっ・・・やめて」 
川音で決して座敷まで声がとどくことはないことを知っていながら、わたくしは声を潜めずにはいられませんでした。
「ほぉっ・・・記憶通りの唇でしたよ」 
唇の間でため息をつくように言って、やっとわたくしの身体を離してくれたのです。

「片付けも終わったころでしょう。戻りますか」 
庭に来たときと同じ何もなかったかのようなそぶりで、男性は元来た道を歩きだしました。
あのバーの前に止められたセルシオに乗ったときから、こんな夜は予想はしていました。ただ、男性一人と知ったときの・・・安堵は もしかしたら間違いなのかと少し怖くなったのです。
以前の・・・淫らな熱にうかされたかのように3人の男性に翻弄されたあの夜。
今夜はもっと別の意味でわたくしは弄ばれるのだと悟ったのです。
 
食事をしていた部屋の座卓は片付けられ、小机にお酒と飲み物の用意だけが上品にされておりました。
明かりは落とされ、イサムノグチの和紙使いのスタンドからもれる間接照明だけがほのかに室内を照らしておりました。
運転手は襖の側でわたくしたち2人を出迎えてくれます。
勧められるままにゆったりと横座りに座椅子に座ると、雪見障子は上げました。
ライトアップされた紅葉の庭が美しく見渡せます。
つい先ほどまであの奥で・・・そう思うだけで絹に押さえられている乳房の先が疼き出すのです。
「軽い食後酒でもいかがですか」 
差し出された果実酒は、ほのかな酸味が心地よい新酒の梅酒でした。
「んん・・おいし・い」 
氷で冷やされた甘みのあるとろりとした液体は、次第に熱さを増しながら喉の奥に落ちてゆきます。
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