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第九 in the MOVIE 4

「お料理でございますが、メインをお選びいただけますでしょうか。」
「そうだな、祥子さんはどうしますか?」
「お肉も捨てがたいのですが、北寄貝も美味しそうですね。」
「ええ、今日はいい貝がはいっておりますので、おすすめです。」
「それでは、Bで。」
「はい。お食事はご飯とお蕎麦のどちらになさいますか?」
「夢ごこちの新米がいただきたいわ。」
「それじゃ、そちらにしましょう。」
「デザートは、4つからお選びください。」
「和栗かな。」「わたくしも。」
「ありがとうございます。それではアミューズからご用意させていただきます。」
カウンター越しに見えるセミオープンになったキッチンに、オーダーを取って下さった女性が下がってゆかれます。

背筋の伸びた黒のジャケットとタイトスカートの背中には、お正月まえの静かなひと時でもピーク時と変わらない緊張感を保っているようでした。
わたくしの視線を追っていらしたのでしょうか。
仲畑さんに向き直ったところで、彼はにっこりと微笑んでグラスを取り上げてくださったのです。
「お誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「こんな日に祥子さんに再会できるなんて、私は神様に愛されているな。」
「ふふふ。さぁ、どんな神様なのでしょうね。」
笑っているうちにアミューズが、そして前菜が届けられます。酒盗の和え物に白胡麻豆腐の生雲丹添え。なだ万らしい繊細で美しいお料理です。
いただきます、とわたくしは両手を合わせて箸を取り上げました。
白胡麻でつくられた葛寄せ豆腐はなめらかで、豊かな香りがいたしました。
おいしい、一口目で、わたくしはその香りに思わず微笑んでしまいました。

「聞いていいかな。幾つになったんですか?」
「はい、44歳になりました。」
「いい年齢だね。ほんとうに、いい年の取り方をしている。」
「はずかしいですわ。そうですか?」
「ああ。年齢を聞かれて、祥子さんは躊躇わずに口にしたね。」
「ええ、だって本当の年齢だもの。」
「実はね、多くの女性はその<本当>を言いたがらない。」
「若く見られたいから?でしたらわたくしもそうですわ。」
冷菜です、と届けられたお造りも本鮪の豊かな味わいが見事でした。
「若く見られたい、若くありたい・・・っていうことはいい事だと思っているんですよ。でも、それは年齢を詐称するのと意味が違う。私はね、自分の年齢をありのままに口に出来ないのは<今の自分を認めてない>んだと思うんです。」
「認めてない?」
「そう、いま眼の前にあるこの自分しかないはずなのに、それを認めないでどこか他にある別の自分ばかりを探してる。若くて夢想している年代ならともかく、年齢を重ねてきちんと自分と向き合わなくてはならない大人になっても、まだ<ここにはない何か>ばかりを探している女性を見ると、がっかりする。」
そうでした。この方は、女性に対して辛辣な面があったのだということを思い出しました。でもその辛辣さは、苦いばかりではないのです。きちんと理の通ったお話はわたくしも学ぶところの多いお話でした。
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コメント
相変わらず祥子さんは「食べる」ということを大切に
されますね。味わうという表現がぴったりとくる。

まさに頂くというのは、こうした風景を言うんだろうな。
素敵な会話とともにね。

2006/12/27 20:12| URL | eromania  [Edit]
昨日とうってかわって、暖かな一日でした。
でも、まだ陽は低いですね。冬の中の一時の贈り物でしょうか。

>両手を合わせて箸を取り上げました。
さりげなく書かれていましたが、無理なく、流れるような動作の中に、自然に手を合わせた姿が、とても美しく目に浮かびました。


2006/12/27 21:01| URL | masterblue  [Edit]
う~~ん、仲畑さんネー、
いーコトゆーなァー。
オレは女性ではないけど、
理に敵ったコトバ…学んじゃったヨ。

2006/12/27 23:29| URL | ウルフ  [Edit]
一時の温もりの一日・・・皆様はいかがお過ごしでしたか?
豪雨の後の暖かな一日。
まるで夏の台風の後みたいでしたね。
わたくしは昨日はサックス奏者の方とピアニストお二人を囲む忘年会に行ってまいりました。
素敵な音楽を作る方は、ご一緒しても楽しいですね。

eromania様
ふふふ、そう言われればわたくしのお話にはお食事シーンが多いですね。
でも、デートの時一番たくさんのことをお話するのはこんな時間ではないでしょうか。
ふとした気持ちを語ってしまうのも・・・こんな時です。

masterblue様
いただきます。ごちそうさま。
当たり前の挨拶の言葉や、しぐさが少しずつみられなくなっているような気がしますね。
これも<躾>が不在になっているせいでしょうか。

ウルフ様
仲畑さんのおっしゃることは、いつも本当にはっとさせられることばかりです。
52歳。きっとこんな年齢の男性だからなのでしょうね♪
いつか、もっと大人になった時に素敵な若い男性にこうして何かを伝えられる女になりたい、と思います。

2006/12/28 08:02| URL | 祥子  [Edit]
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