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初雪 6

「いつものシャンパンと生ガキを頼むよ。それからシェフにおまかせするからあまり重くない、美味しいメニューを頼む」 
4人が座ったところで美貴さんが支配人に指示をします。
「わかりました。後ほどシェフを伺わせます。どうぞごゆっくりお過ごしください」 
一礼をして去る支配人と入れ替わりに、4人の前にシャンパングラスが置かれたのです。
「祥子さんに乾杯!」 
石塚さんの声に、他の二人も目線にグラスを上げて乾杯をいたしました。
 
「ふふ、他の客席の男性達の視線見ましたか」 
山崎さんが愉快そうにおっしゃいます。
テーブルに3種類の生ガキの盛り合わせがまいりました。
「美貴は前を歩いていたから気がつかなかったろう」 
厚岸のカキを手に、石塚さんはぐいとまるでミネラルウォーターのようにシャンパンを煽るのです。
「いや、僕の前のほうの席の女性までこちらを見ていたからね」
「視線が祥子さんをすうっ・・と追うんだ」
「これだけ艶めかしければ男なら視てあたりまえです」
「おっしゃらないで・・・」 
男性達の声にわたくしは顔を赤らめてしまいました。
「ドレスの脇から覗き込もうとしていた不埒な輩もいたな」
「気になるでしょうね、このライン」 
右隣の山崎さんがドレスの外側の乳房のラインにつっと指を走らせるのです。
「あっ・・く だ・め・・」
このテーブルにはサービスの男性が1人ついていました。次々と空くグラスをシャンパンで満たし、カキの殻を片付けてゆくためにです。淫らな声をあげるわけにはまいりません。
声を押さえた分、わずかにした身じろぎさえ・・・テーブルに落ちているスポットライトの光を揺れるビーズが反射して明らかにしてしまうのです。
「揺れるだけ反射するビーズがこんなに刺激的とは思わなかった。これは計算か?美貴」 石塚さんの手には、既に2杯目のシャンパンも半分ほどになっていました。
「違うさ。祥子さんに似合うと思って手にいれただけだ。うれしい誤算だよ」 
「煌めきの分だけ想像を誘いますよね。それも上げ底なんかじゃない。いまどきの若い人たちと違いますからね、祥子さんは」
「ああ 増えたな。服の上から見ると結構なバストだと思うが、脱がせてみると貧相なのが。祥子さんのが本物なのはこの姿を見れば一目でわかるからな」 
左隣の石塚さんの視線が、脇にかすかに見える乳房の膨らみをなぞってゆきます。
「祥子さんの前で他の女性の話なんて。行儀がわるいぞ、石塚」 
嗜める様に美貴さんが軽く睨むのです。
 
「美貴様、いらっしゃいませ」 
太く落ち着いた声がしました。大柄でゆったりとした存在感のある男性です。
このレストランのグランシェフでした。
お三方とは顔見知りのようです。それぞれにご挨拶を交わされてからわたくしを見つめ、にっこりと挨拶をしてくださいました。
「今夜はどういたしましょうか」 
ゆっくりと美貴さんに視線を戻されて、いつもの会話といった風情でお話がはじまりました。
「シャンパンとシャトー・ラグランジュをいただこうと思ってますから、それに合うものを。祥子さん、お嫌いなものはありますか?」
シェフの瞳がまたわたくしの元へ動きます。それも深く開いた胸元へ、露骨ではないように慎み深く視線が行き来するのがわかりました。
「いいえ、好き嫌いはありませんから。シェフのおすすめのものをいただけたらうれしいですわ」 
わたくしは軽く微笑みながらシェフに答えました。
「ジビエでも召し上がれますか?祥子様」 
わたくしの名前を噛み締める様に繰り返されるのです。
「ええ 好きです。兎でも鹿でも、シャトーラグランジュには合いますものね」
「承知いたしました。このお時間ですから軽く召し上がれる様にお作りいたします」
「よろしくおねがいします」 
美貴さんの一言で一礼をして、シェフは厨房に戻られました。
「あのシェフもこれで祥子さんの虜だな」
「もう 石塚さんたら。シェフに怒られますわ」
「美貴、また連れて来いとねだられるぞ」
石塚さんが残りのシャンパンを煽るように飲み干します。
「祥子さんが気に入ってくださるならいくらでもお連れしますよ。僕と二人きりならいつでもね」 
味には自信があるのでしょう。美貴さんは本気ともつかぬ口調で切り返します。
「また独り占めか、美貴」 
ははは・・・僕もそうしたいな、と揃って笑い声をあげました。
ほんとうに仲の良い3人なのです。
 
「祥子さんはあの視線に感じてしまったのではないですか?」 
右から山崎さんがわたくしを覗き込みます。アップにした髪型のせいで、隠れることのない耳元と首筋に彼の吐息が吹きかかるようです。
「ちっとも召し上がってないですね。生ガキはお嫌いですか」
「いいえ、そんなこと」
「沢山の視線に感じて、その上グランシェフにまであんなに熱く見つめられて。こんなふうにもうしっとりと身体を潤ませてしまいましたか?祥子さん」 
海水から上げたばかりのようにぬめぬめと光るカキを、美貴さんが指し示すのです。
「やぁ・・・」 
Gカップのバストを覆うランジェリーを与えられず、シルクのドレス一枚だけで胸元を覆う姿でホテルの中を衆目に晒されながら歩かされているのです。
着替えたばかりの新たなTバックも・・・もう・・・。
「美貴、だめじゃないですか。祥子さんがますます召し上がれなくなってしまう。さぁどうぞ美味しいですよ」
山崎さんがわたくしの口元にライムを絞ったカキを寄せるのです。
「自分でいたしますわ」
「僕が食べさせたいんです。さぁ」 
美貴さんと石塚さんと・・・ホテルのサービスの男性が見ている前で・・・わたくしはそっと唇を開けました。下唇に殻の当たる感触がして、つるっとカキの身がわたくしの喉に落ちてゆきます。
「・・ん・っくん、おいし・い・・。あん」 
海のミルクという言葉がぴったりの・・・磯の香りがするこっくりとした味でした。言葉が終わる間もなく、唇に残るカキの滴を山崎さんの指が拭っていったのです。
「祥子さんの香りのカキ・・美味しいですよ」 
すべすべの指先をぺろっと嘗めるのです。
「何をなさるの・・・」
お食事・・・それも他の方の眼のあるレストランで、それなら想像を超える以上の羞恥を強いられることはないだろうと思っていました。でもそれは間違いだったかもしれません。
「唇で拭いたいのを我慢したのに。そんな怖い顔をしないでください、祥子さん」
悪戯っぽく山崎さんの眼が光るのです。
「それじゃ、今度は僕のを食べてもらおうかな」 
ワシントン産の丸くて平なカキを石塚さんは大きな手に取ると、ライムを絞りかけ・・やはりわたくしの口元にお持ちになるのです。
「あぁ~んして、祥子さん」
わざとわたくしの唇から少し離して・・殻を傾けたのです。
ちゅるん・・と唇をかすめて薄くでもミルキーな小粒の貝肉と潮の香りがが口内に落ちてゆきます。
同時に、殻に満たされていた海水がわたくしの胸元に滴り落ちたのです。
「ん・・ぁっ・・」
手元のナフキンで拭き取ろうとする間もなく、胸元に石塚さんの顔が伏せられたのです。
ぺろっ・・・肌を舐める生暖かい舌の感触がいたしました。
「だめ・・」「こら やりすぎだぞ 石塚」 
わたくしが抑えた声を上げる間もなく、石塚さんは顔をあげたのです。
「山崎が言う通りだ。祥子さんの肌の香りがプラスされると何倍も美味しくなるな」
美貴さんの叱責の声すらも堪えないのでしょうか。舌なめずりをするように僅かな汁を味わっているのです。
「石塚さんはこれだから。祥子さんが困ってるではないですか」 
山崎さんのグラスにサービスの男性がシャンパンを注ぎにまいります。
「それに彼も、ね」
山崎さんにアイコンタクトをされたサービスの若い男性は、熟した大人の男女の戯れに頬を軽く染めておりました。
 
「次の皿が来たようです。祥子さんどうぞ最後のカキを召し上がってください」 
そして、わたくしはようやく自分の手で的矢のカキを口にすることができました。
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コメント
生かき
生かきは形が卑猥な感じがしますが、食べるとおいしいですね。とってもすきです。
シャンパンとかきと祥子さんを味わいたいですね。

広州出張より上海にもどりました。
広州は今回は寒かったです。

2006/03/14 23:17| URL | yamatan  [Edit]
yamatan様
ご出張お疲れさまでございました。
この数日日本も寒い日が続いておりますから
広州はなおさらでしたでしょう。
お風邪など召されませんでしたか?

生牡蠣はわたくしのすきな食べ物の一つです。
でもこんな風に言われてしまうと・・・
口にするのをつい躊躇ってしまいますわ♪

2006/03/15 00:12| URL | 祥子  [Edit]
NoTitle
先日、彼とオイスターバーでの、食べ比べをしました。思いがけず美味しかったのはタスマニア産でした。でも、的矢とは同じかきというくくりにして良いものかと思う位、味わいが違いました。殻から口元を見つめあいながら滴るかきを食す。それだけでその夜の序章になりますね。

2006/03/15 02:21| URL | るり  [Edit]
るり様
素敵な方とシャンパンを傾けながらご一緒したい場所ですね、オイスターバーって。
タスマニアはこれから秋になりますから、きっと岩牡蠣に近い濃厚な味だったのでしょうね。わたくしは岩牡蠣でしたら、ヴェルベデーレのストレートと合わせるのが好きです♪
あの濃厚な味をきんと冷えた香り高いウォッカがすっきりと洗い流してくれますからね。

2006/03/15 16:19| URL | 祥子  [Edit]
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