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女性運転手 結城 6

結城くんはショップではなかなか上手くやっていたようだ。
本社勤務の時は私服のままだったから、化粧っ気もなくいつもジーンズとシャツばかりだった。ショップで制服がわりに稼ぎ頭のブランドの服を着て、先輩の女子社員に言われて口紅くらいは引く様になって少しは女の子らしくなってた。

だが、百貨店部の懇親会で箱根へ社員旅行に行った時、プライベートの結城くんは少し元気がないように見えた。
入社して間もなくのころに先輩とのことで苦労したせいもあって、表面上は卒なく回りの人間と会話をこなしている。が、1人になったときふぅぅっ・・っとため息を吐いた背中が小さく見えて可愛そうになった。
本社に居た時、CADに向かった彼女は何時間でも疲れ知らずにパターン・メイクに取り組んでいたという。それが、一転して人との接触の多いショップ勤務だ。人と付き合うことがあまり得意でないタイプなら、それなりに大変なこともあるのだろう。
彼女に話しかけようと思っても、夜のパーティではあちこちの店舗のショップマスターに囲まれてチャンスを逸していた。
翌日は、百貨店部の有志でゴルフをする予定だった。3台の車に分乗していくうちの1台を結城くんが運転するとわかったのは、幹事が回してくれた翌日のメンバー表からだった。

翌朝、私は彼女の運転する車に乗った。百貨店部長とメンズのショップマスターが同乗した。
履歴書を見た時、結城くんが運転が好きなのだろうということぐらいはわかっていたつもりだった。が、彼女の運転技術は予想を超えていた。静かで穏やかで・・・早い。的確な操作技術を見せつけられたのだ。
結城くんはゴルフはしないらしい。車雑誌を手に、クラブハウスで待っているという彼女に昼食の前にようやく声を掛ける事ができた。申し訳ないね、退屈だろう・・・と。

「いいえ、思い切り運転出来て楽しいです。なんだか、わたし人付き合いがへたみたいで・・・。今日は景色のいいところでのんびりできてほっとしてます。」
それが結城くんの答えだった。





「そう、それで結城さんは山崎さんの専属ドライバーになってくださったのね。」
オレンジ色の香り高いマンゴーはイメージしていた以上にテキーラにぴったりでした。山崎さんも気に入ったのでしょう。次のひとかけらをフォークに刺していたのです。
「ええ、転属して1年半。ドライバーとしてよくやってくれますよ。」
「お正月休みまで付き合わせてしまって。」
あの石塚さんの雪の別荘までのドライブ。どれほど素敵なホテルだとはいえ、予定よりも1日多く一人きりで過ごさなければいけなかったお正月休み。
なのに、何も言わないで・・・山崎さんに従ったのだもの。

わたくしと彼女が顔を合わせたのは、別荘に着く前の道の駅の駐車場が最後でした。
別荘に着くなり望月さんに抱えられ・・・帰りは皆さんに見送られて望月さんの運転するセルシオで一足先に別荘を出たのですから。
はしたない声を・・・山崎さんと石塚さんとの行為を・・・年若い彼女に知られて、わたくしは結城さんの眼を直視することなど出来なくなっていました。
あの潔癖さなら、わたくしのことをなんて淫らな女なのだと思っていたことでしょう。




専務から元旦に休日出勤をしてくれないかって頼まれたとき、お休みまで一緒に過ごせると思ってとってもうれしかった。
どなたがご一緒なのですか?って聞いたときも、いつもの仲間だよ、って仰って。美貴様と石塚様のことは以前に何度か社用車でお送りしたこともあったから、あの方たちならきっと楽しいドライブができるとわくわくした。

なのに、指定されたホテルで出てきたのは、背の高い毛皮の似合うきれいな大人の女の人だった。「祥子さん」と、専務が会社の誰も聞いた事がないような甘い声で呼ぶ人。石塚様とも親しいみたい。
とっても感じのいい笑顔で「よろしくお願いします。」って挨拶されたけど、隣によりそっている専務を見るとぶっきらぼうにしか返事ができなかった。

車はレンジローバー。お金をかけた改造がしてあった。内装もだったけど、タイヤも足回りも、エンジン出力もなかなかだった。寒冷地仕様だったし、よっぽどじゃなければチェーンなんてなくても、あの別荘まで走り抜けそう。ETCも設定済みだった。
専務は当然のような顔をして、「祥子さん」と二人でリアシートに座る。
石塚様もリアに行きたそうにされていた。

その理由は、嵐山のパーキングエリアで石塚様から言われた言葉でなんとなくわかった。
「結城さん、道は大丈夫だね。途中、甘楽でもう一回休憩して碓氷軽井沢で降りてくれ。それから、ここのカーテンを閉めたらリアシートで起きていることは気にするんじゃない。その場で忘れてくれ。一切口外無用だ。いいね。」
石塚様は運転席の後にあるカーテンを指差す。本来は絶対に運転中に閉めちゃいけないカーテン。それを、閉めて走れということらしい。
こんな風に念を押す以上・・・専務もご存知だということだろう。
専務がおっしゃることなら、従うだけ。

でも、あんまりだった。
わたしはまだバージンだったから、後で起きていることがどんなことかなんてわからない事もあった。ただ・・・凄く淫らでいやらしいことが、専務と石塚様と「祥子さん」の3人でされていることくらいはわかる。
3人とも声を顰めてはいるけど、その分時折上がる喘ぎや、石塚様の命令口調、専務の愛語が・・・。耳を塞ぎたくて、でも運転しなくちゃいけないからJAZZのCDを大きく掛けて聞こえないようにした。
別荘にいくにつれて、いやらしくなってゆく様子になんど「やめて!!」と声を上げたくなっただろう。

「結城くん、疲れていてわるいが君は万座プリンスに部屋をとってあるからそちらに行っていてくれないか。明日帰る予定だけど、時間はまだ決まってないからホテルに電話をするよ。スキーをしてもいいし、どのレストランで食事をしてもいい。贅沢できままなお正月を過ごしておいで。これは、お年玉だよ。気持ちだけだけどね。」
別荘でエンジンを止めて車を降りようとしたら、専務はわたしの膝に小さな包みを置いてそう言った。
皆さんが過ごすための別荘に、わたしは一歩も入る事さえゆるされないのだ。
「わかりました。ご連絡お待ちしています。」
それだけ言って、レンジローバーを出した。

ホテルの部屋は贅沢なダブルルームだった。
1人部屋で専務のくださった包みを開けたら、ガラスの犬の親子の人形が出てきた。

専務・・・わたしのことはあなたには一人前の女に見えてないんですか。

女性運転手 結城 7




「結城さんには、はしたないところばかりお見せしたみたいで、申し訳なくて。」
「いえ、それは祥子さんのせいじゃないです。気にしないでください。」
「もう、お逢い出来ないわね。」
お聞きした年齢は想像通りでした。
彼女の態度、彼女の表情・・・山崎さんを好きだと言っていたあの潔癖な視線はわたくしを許してはくれないかもしれません。
「結城くんもプロの運転手のはしくれです。帰り道に美貴や石塚さんとした話もきちんと聞いてましたから、誤解なんてしてません。」
別荘からの帰り道・・・この方達は彼女を前にどんなことをお話になったのでしょう。
「そんなに、結城くんのことを気にするなんて、祥子さんは女性にも興味があるんですか?」
悪戯めいた表情で山崎さんがわたくしを茶化すんです。
「そんなこと。」
「望月くんの例もありますからね。僕と石塚さんが知らないうちにいつの間にか仲よくなっていて妬けましたよ。」
「もう、そんなんじゃないです。いやだわ、山崎さんたら。」
わたくしは・・・思わず頬を染めてしまったのです。
あの帰り道、望月さんと二人きりで過ごした時間のことを思い出して。
「あんな素直で潔癖そうなお嬢さんだったから、どんな方なのか知りたかっただけです。可愛そうなことをしたわ。」
「祥子さんはやさしいですね。」
カウンターの上のテキーラはもう終わっていました。
思わぬ雨宿り・・・わたくしは、今夜は少し飲み過ぎているようです。

「お送りしますよ。それまで、なにか軽いものを。」
手を上げた山崎さんにマスターが応えられます。
「そうですね、ミントジュレップなどいかがですか。今夜は蒸す様ですから、さっぱりといたしますよ。」
「ええ、それを2つ。それからタクシーを呼んでください。」
「承知いたしました。」

「あの・・・。」
結城さんのお話をうかがったこんな夜。わたくしは山崎さんが望まれても肌を交わす気にはなれませんでした。
「心配しなくてもいいですよ、祥子さん。今夜はまっすぐにお送りします。僕もちょっと飲み過ぎたみたいです。せっかく逢えたのに、残念ですけれど。」
山崎さんは、紳士的な表情のままでそう仰って下さったのです。
「ありがとうございます。」
「いえ、祥子さんとお逢い出来ただけでうれしいですよ。そのかわり、今度は僕だけに祥子さんを招待する機会を作って下さい。ふたりきりで、どこか・・・のんびりしたところで過ごしましょう。」
「ええ、お時間が許せば。」
カウンターの上に置かれたわたくしの左手に重ねられた山崎さんの手のひらは、いつものように・・・すべらかでした。




社員の・・・とは言っても全員ではないが、秘書や運転手といった日頃心を砕いてくれるスタッフの誕生日には、ほんのわずかだがお祝いをすることにしている。
花を贈る事もあれば、好みのバッグやアクセサリーをプレゼントすることも、家族で夕食ができるようにレストランを予約しておくこともある。

去年の誕生日には、フォーミュラー日本の開幕戦のチケットをプレゼントした。
今年の結城くんの誕生日。正月のこともあったので少し奮発しようと、自宅へ帰る車の中で本人に聞いてみたのだ。
「今年の誕生日は、結城くんの好きなものをプレゼントしてあげるよ。何が欲しい?」
「何でもいいですか?」
深夜の都内の幹線道路をスムーズに大型車をパスしながら、彼女が言った。
「君には随分無理も言ってるからね。なんでもいいよ。」
何かを・・・考えているように彼女からは返事がない。
「よく、考えたらいい、決めたら教えてくれ。」

「あの・・・」
自宅マンションの車寄せに着いた。いつもなら、そのままドアを開けて見送ってくれる彼女が、フロントガラスを見つめたままで想い定めたように口を開いた。
「ん?決めたのかい。」
「わたしを抱いてくれませんか。・・・女に・・・してください。」
いつも小気味良く話す彼女の声とは思えないほど、小さく震えた声だった。
「だいて・・・ください。」

「結城くん。このことは聞かなかったことにするよ。君は大事な社員で優秀な運転手だ。わかるね。プレゼントは私が選んで届けよう。」
リアシートのドアを開けた。
「明日の朝もいつもの時間だ。よろしく頼む。」
「失礼します。」
振り返ることなく、車を降りドアを閉めた。
結城くんが私をこんな風に思っているとは、想像もできなかった。
これ以上彼女の気持ちを動揺させるわけにはいかない、明日からは今まで以上に上司として結城くんに接することにしよう。
いつか、彼女に相応しい優しい恋人が現れればすぐに忘れてしまうだろうからな。





恥ずかしかった。あんなこと言わなきゃよかった。

でも、あの「祥子さん」に負けたくなかった。
専務があの人に本気なのは、お正月の帰りの車の会話でも、あの後何度もお送りした美貴様や石塚様とのお話でもわかっていた。
あんなこと・・・少なくとも石塚様ともいやらしいことを平気でするような女なのに。
それでも、専務は「祥子さん」しか見えてないんだ。
前はときどき銀座のママを一緒に送ったこともあるけど、ある時からぱったりそういうことをしなくなった。あれも、きっと「祥子さん」が原因なんだ。

どうしよう。明日・・・。
でも、大事な社員だって・・・優秀な運転手だって言ってくれた。入社してからずっと困った時に助けてくれた専務の期待には応えなきゃ。





朝、私を迎えにきた結城くんは赤い目をしていた。
昨夜は眠れなかったのかもしれない。
今日は幸い終日本社で業務の予定だった。帰りは美貴と約束をしているから、望月くんが来てくれることになっている。彼女のことは早く帰してやろう。

私は昼に、結城くんへのプレゼントを買うとカードをつけて秘書に託した。
TOD'sのネイビーのドライビングシューズは彼女にきっと似合うだろう。

「お誕生日おめでとう。この一年、元気でがんばってください。 山崎」

外伝2/レンジローバーの帰り道 1

「ああぁ、祥子さん行っちゃったね。」
雪の別荘の門の前で、私はついそう呟いてしまった。
そう口にしていながら私の身体は、まるまる3日間あの女性と過ごす事が出来た夢のような時間の余韻に、まだ半分浸っているようだった。
はらりと落ちかかる前髪をオフホワイトのアラン編みのセーターから出た少し冷たい指先でかきあげる。ざっくりとした編地と、上質なウールの感触がとても好きで、もう5年も愛用している1枚だ。
「望月に任せておけば大丈夫さ。」
美貴が、私の言葉をどう誤解したのだろうか、そんな風に口にした。ネイビーのハイネックはシャープな美貴の容貌に似合う。いつもはスーツしか着ない彼のデニムスタイルは珍しい。
完全休日にしておいた年始休みの、今日が最後の1日であることを堪能するかのような装いだ。それとも、最近ジムで引き締めたと言っていたスタイルを祥子さんに印象づけたかったんだろうか。・・・まったく。
「結城くんが来るのは11時くらいか?」
「ええ。一昨日、ホテルのチェックアウトまでのんびりしてていいよ、と伝えてありますからきっとそれくらいの時間になるでしょう。あのホテルからここまで、下りは結構きついですからね。1時間弱といったところじゃないですか?」
セルシオが全く見えなくなるまで、門外で見送っていた石塚さんはようやく玄関へと踵を返した。こんなところが、義理堅い・・・この人のいいところだと私は思う。今日はグレーと白のシンプルなチェック柄のネルのシャツだ。去年のスキーシーズンに、うちのスポーツブランドでまとめ買いしてくれたうちの1枚だったはずだ。襟元にはチャコールグレーのスキーのアンダーウエアーが覗いている。軽装だけど結構これで寒さも防げる、スキーヤーらしいセレクトをしている。
別荘の扉を開けると、暖房であたためられた空気が優しく私達を迎えてくれた。

「それじゃ、朝飯を片付けて、帰りの準備でもするか。こういう時に望月くんがいないのは不便だな。」
「うちの望月を使いっ走りがわりに使わないでください。」
石塚さんも美貴も、たった一人の女性がいなくなっただけで気が抜けた様になっている。まぁ、私も同じなんだが・・・。
エンドレスでかかっているモーツァルトのCDを聞きながら、私達は別荘のテープルで用意されていた朝食に手を付けた。
一昨日の夜。湯文字だけの姿で縄で括った祥子さんを望月くんと一緒に雪のつもったウッドデッキへ出した時と同じテーブルの同じ椅子に、私も美貴も石塚さんも座っている。
あのときとは正反対の明るい陽の光が乱反射するテラスに、視線をつい走らせてしまうのは私だけではないようだ。
真っ暗な中に窓の結露を払ったところだけに浮かんだ・・・祥子さんの白い乳房・鴇色の乳首・・・赤い縄と・湯文字。
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彼女の視線が、ずっと一緒にウッドデッキに出された望月くんにだけ注がれていたことに私は焼けるような嫉妬を覚えていた。
あぁ、油断をすると勃ってしまいそうだ。

ゆうべ一晩。私達3人は祥子さんに触れていない。もう、全ての精を彼女に注ぎ尽くしたからだった。さすがに、もう一晩祥子さんが側にいても・・・彼女もだろうが・・・私達も限界だった。
2日間を通して責め立てた後、彼女のことは望月くんに任せた。
以前箱根の宿で一夜を過ごした時、望月くんと祥子さんにふたりきりの時間を与えたことがあると美貴が言っていた。
その時は、なんとも甘く・悩ましく・・・望月くんに愛されている祥子さんの喘ぎ声が聞こえ続けたそうだ。

外伝2/レンジローバーの帰り道 2

だから、きっと今度もそうなるだろう・・・と精の尽き果てた私達は半ば期待して、伸びた滞在日程の分だけ、望月くんひとりに祥子さんを託したのだ。
だが、今度ばかりは望月くんは必死の忍耐を見せたらしい。
もちろん、祥子さんは目の下にうっすらと隈を浮き立たせるほどに疲れ果てていた。一番若い望月くんが、持てる精力を尽くしたくてもとても応えられる状態にはなかったのかもしれない。
朝日を見た後の昼のまどろみも、夜の長い時間も・・・とうとう一度として、ほんのかすかにも祥子さんの<あの声>が聞こえる事はなかったのだ。
「ゆうべも結局静かだったな。」
まるで私の脳裏を覗いていたかのように、石塚さんが呟く。
「もし、ゆうべ祥子さんの声が聞こえたらどうするつもりだったんですか?」
同じ部屋の隣のベッドに寝ていた石塚さんは、何度か寝返りをくりかえしていた。時折深い寝息といびきが聞こえていたのでウイスキーの酔いで寝入っているとばかり思っていたが、そうでもなかったようだ。
「そうだな。メインベッドルームのドアを開けて、俺も襲っていたかもしれないな。」
美貴の多少いじわるな質問にも、さらっと答える。
「元気ですね。」
「我慢できるくらいなら、こんなに執着しないさ。」
「ははは、確かにそうですがね。」
私達もそして祥子さんも忙しい。
次にいつ逢えるのか、誰もわからなかった。
そして、だめになってしまうかもしれない約束を、無駄に祥子さんに押し付けることも出来ないでいた。

「さぁ、忘れ物がないように確認してくれ。まぁ忘れて行っても、俺のとこだからいつ取りに来てくれても構わないけどな。」
万座鹿沢口を右折した先の左手にあるこの雪の別荘は、石塚さんの持ち物だ。
ずっと祥子さんが休んでいたメインベッドルームは、実は石塚さんのための部屋だった。
「ゲストルームのベッドも手を抜かなくて正解だったな。」
夜通し責め続けた祥子さんを望月くんの手に委ねると決めた時、石塚さんが悔し紛れに口にした一言が妙に耳に残っている。きっと、ゲストルームのベッドで眠るのなんてはじめてのことだったんだろう。
自分たちの荷物は、今朝方まとめたものをもう望月くんが玄関口まで運んでくれてあった。
食料品は、ほとんど使い果たしたらしい。わずかに残った調味料だけが、冷蔵庫に残っていた。
ゴミは管理事務所が焼却処分してくれるし、生ゴミは車庫の脇に目立たない様に設置されたコンポストで有機解体されることになっている。
浴室は、メインもゲストも望月くんがきれいに洗って温泉の栓も締められていた。
祥子さんへのプレゼントの数々は、セルシオに積まれて既に東京に向かっている。
食器やスリッパなどは、もうこのままこの別荘の備品にすることに石塚さんは決めていたようだ。
行きに、セルシオとレンジローバーに満載してきた様々な荷物は、ほんとうにこじんまりとまとまっていた。

三人は、手分けをして別荘の中の忘れ物と戸締まりを確認していった。そして、結局メインベッドルームに集まってしまった。
「なんだかまだ祥子さんの香りがするみたいですね。」
「ああ。」
石塚さんが正面の壁一面にかかったカーテンを開く。そこは、昼の光をきっかりと反射する鏡面だった。

外伝2/レンジローバーの帰り道 3

「綺麗だったな。ウエディング姿の祥子さんは。」
「ええ。あのまま教会へ拉致して誰にも触れさせたくなくなりましたよ。」
美貴の言葉は、あの場にいた全ての男の気持ちだろう。
その気持ちの裏返しが、あのサディスティックなダイスゲームなのが美貴らしい。
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「望月くんも含めて4人でいても、全員が満足してしまう。そりゃもちろん、いろいろ思うところはあるさ。でも、こんなのは他の女じゃ考えられない。」
「そうですね。どうしてなんでしょう。」
ピン・ポォン・・・ピン・ポォン・・・
私がなにかを答えようとした時に、結城くんが到着したドアホンが鳴った。
あのこは、だれも答えないからといって自分からドアを開けるようなタイプではない。誰かが答えて開けるまで、じっと玄関先で待っているようなコだった。
「結城くんが来たようです。続きは車で・・・。」
「ああ。そうだな、帰り道も長いからな。」
先ほどと逆に石塚さんはメインベッドルームのカーテンを閉めた。

やっと昨日の夜に「明日チェックアウトして別荘まで迎えにきなさい。」って専務からのメッセージが入った。どんなに贅沢かしれないけど、1人のホテルは淋しかった。それに専務と一緒にいるのがあの<祥子さん>で、1日以上も予定より長く一緒にいたのかと思うと嫉妬で気が狂いそうだった。
綺麗な人だけど・・・往きの車のなかでずっと・・バージンのあたしにだってわかるようなこと・・・専務と石さんにいやらしいことをさせてた。まる一日消すのにかかっちゃった淫乱な匂いを自分もそれに専務にもさせる女。
ようやく専務のお顔が見られるけれど、最初に迎えに行ったときみたいに<祥子さん>がいたら嫌だな。専務が<祥子さん>しか見なくなるから・・・いや。

「待たせたね。」
「いえ、お荷物はどれでしょう。」
結城くんは元旦の朝、タワーホテルの扉の前に立っていたときと同じ表情でそこにいた。
「これだけだ。自分で運ぶからリアを開けてくれ。」
石塚さんが陽気な調子で結城くんに声をかける。
この人はいつもそうだ。少し神経質な感じで壊れそうなガラス細工のような風情の女の子なのに、ことさらに気を遣うといった風情を見せはしない。
どちらかというと一見は乱暴に見える物言いで踏み込む。でも、しばらくすると結城くんもリラックスして見えるのだからそれはそれで、この人らしい人心掌握術の1つなのだろう。
美貴は、ちょっとだけいつも結城くんのことは苦手そうにしている。
嫌なんじゃないだろうが、「彼女と居ると自分のしてることが汚いって非難されてるような気がするんだよ。」と飲んだ席で愚痴ったことがあった・・・のが本音だろう。
3人のトラベルバッグと、望月くんが用意してくれた着物を入れたバッグが3つ。荷物はこれだけだった。
私達はそれぞれにバッグを手にして、レンジローバーのリアにまわる。
「ありがとう。」
この車を降りた日、祥子さんのフェロモンと私と石塚さんの精の匂いで噎せ返りそうだった車内の空気は、ほんの僅かも残っていなかった。
今日下ろしたばかりの新車だと言われてしまえば、そう信じたくなるほどに車内の空気は清浄だ。まさか、このコはこの休みの間車の清掃に精を出してたわけじゃないだろうな。