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EVE 6

「はい。」
ブルーの袋の中には7センチ四方の奥行きは3センチほどでしょうか。箱がブルーのラッピンングペーパーで包まれていました。
留められたシールは、わたくしが思ったブランドのものでした。
ゆっくりとシールを剥がしてゆきます。
中にはブルーの化粧箱がありました。
「さぁ、開けてみてください。」
わたくしの手もとを二人の男性と、正面に控えた女性のバーテンダーがご覧になっているのは解っていました。
箱だけを取り出すと、まっすぐに蓋を・・・開けたのです。
「わぁ・・・綺麗ね。」
ダークブルーの箱の中には、クリスタルの雪の結晶が1つ入っていました。4センチくらいの大きさのクリスタルの塊は、輪郭のカットだけでなく、面もいくつかに研磨されていて動かすたびに虹色の光をまき散らしたのです。
「これは、今年のデザインね。」
台紙を引き上げると、それは細い黒のベルベットがネックレスのようにトップに付いていたのです。
「そうですよ。今年のクリスマスオーナメントです。ジュエリー用ではないので、脆いかもしれませんが、年末から年始の一時だけを楽しむならこれでもいいでしょう。」
望月さんがわたくしの手からペンダントを取り上げると、首に掛けて・・・ちょうど鎖骨の少し下に雪の結晶がくるくらいにリボンを結んでくださいました。
「お客様の肌の上でもきらきらして、綺麗ですね。」
わたくしに、マッカランを注いだショットグラスを出しながらバーテンダーの女性がペンダントヘッドから眼をそらさずにそうおっしゃいます。
「今日は襟のあいたものを着て来てしまったから。きっと黒のハイネックの上だともっと綺麗に見えると思うわ。」
「いや、祥子さんの雪白の肌にぴったりだ。雪の女王だね。」
「ほんとうです。お似合いです。」
望月さんまでが、わたくしを覗き込むようにしてご覧になります。
「ありがとうございます。嬉しいわ。お二人とお逢い出来ただけでもうれしいのに、こんなプレゼントまで。本当に、うれしい。」
ひんやりとしたクリスタルの肌触りが、お酒で火照りはじめたわたくしの肌をそこだけ冷やしてゆくようです。
「祥子さんが喜んでくれればそれで充分です。」
カラン・・・ 美貴さんの手もとのカルヴァドスが空いたようです。
次のお酒をマスターが勧める前に、美貴さんは手で制して立ち上がりました。
「ちょっと電話してきます。待っていてください。」
「ええ。」
多分、あのタワーホテルへ・・・でしょう。わたくしは美貴さんの後ろ姿を微笑んで見送ったのです。

「サンタさんをしてたんですって?お疲れさま。」
今度は望月さんに向き直って、改めてそうお声掛けしたのです。
「もう、そんなことまでバレちゃってるんですか。恥ずかしいな。」
「いいえ、そんなことはないわ。きっと似合ったでしょう。素敵なサンタさんだったと思うわ。わたくしのところにもそうして来てくださったらいいのに。」
ふふふ・・・ 小さなグラスの中のマッカランを唇に流し込みます。
凝縮された香りが、口腔の粘膜に触れる事で花のような香りを無限に広げてゆくのです。
「サンタの姿で来たら、今夜を僕と過ごしてくれましたか?」
耳元に寄せた望月さんの唇が、熱い吐息とともにそんなことをおっしゃるのです。

いらっしゃいませ メリークリスマス・・・
どよどよと団体のお客様のいらっしゃる気配が背中にいたしました。
お二人いらっしゃるバーテンダーさんも、マスターもこのときばかりは新しいお客様にかかり切りになっていたのです。

ちゅっ・・・ わたくしは微笑んで振り向いて・・・望月さんの唇にキスをしたのです。
本当に、触れるようなキス。
でもそれは約束のキスでもありました。

EVE 7

「サンタじゃなくても、こんなに素敵なのに。解っているでしょう。」
今夜美貴さんとご一緒すれば明日迎えにきてくださるのは望月さんなのです。
いま、ここで『望月さんは?』と口に出せば・・・美貴さんは望月さんも引き入れて・・・結局二人きりの時間は持てなくなるでしょう。
それくらいなら、今夜望月さん以外の男性に乱される姿を見せる事なく、明日の夜をたとえつかの間でも望月さんと二人で過ごしたいと思ったのです。
「それとも、美貴さんと一緒がいいの?」
望月さんが首を横に振ります。
「ね、明日の朝迎えに来て。明日は一緒にいられるわ。」
今度はわたくしが望月さんの耳元に唇を寄せたのです。彼にだけ聞こえる声で・・・。
「わかりました。」
わたくしに向かってはっきりおっしゃった答えは、美貴さんがこちらに戻ろうとされていることを教えてくれたのです。

「ん~、仲がいいなぁ。」
「美貴さん、酔ってらっしゃるでしょう。いつもと変わりませんわ。ねえ、望月さん。」
「はい。」
「そうかなぁ。」
美貴さんは首をかしげながら、カウンターに腰を下ろされました。
いつのまにか奥のボックス席は満席になり、カウンターの反対の端には2組のカップルが座っていたのです。
「マスター、最後の乾杯のシャンパンを頼む。」
「はい。」
「望月さんはいらしたばかりなのに。」
きっとホテルの手配も取れて、移動のためのタクシーもこちらに向かっているところなのでしょう。
「いいよな。」
「はい。もう随分いただきましたから。」
振り向くわたくしの瞳を見つめて、望月さんはそう答えたのです。
「祥子様、今年のお正月は?」
「今年は、田舎で過ごす予定ですの。」
「そうですか。いえ、ばたばたしていてお誘いできなかったので、どうなさるのか気になっていたんです。」
「お気遣いありがとうございます。」
「今年はご一緒できないのか、淋しいな。」
「はい。」
1年前のあの4日間を、まだお二人ともに忘れていらっしゃらないのがわかりました。
「もう、これからご一緒するのに。」
「あははは・・・欲張りだね。」
「そうですわ。」

お待たせしました マスターが3人の前に3つのシャンパングラスを並べてくださいます。
「これからの祥子さんとの時間に。」
「皆様のご活躍に。」
「メリークリスマス♪」「メリークリスマス♪」「メリークリスマス♪」


祥子からの手紙ー18

今日三度目の乾杯でグラスを開けるとほぼ同時にタクシーが到着したと知らせがありました。
わたくしは来たときと同じにミンクを羽織り、クラッチバックだけを持って地下のバーを後にいたしました。
待っているタクシーは2台。
その1台にわたくしは、美貴さんと二人で乗り込んだのです。
「明日電話する。迎えに来てくれ。よろしく頼む。」
「はい。」
美貴さんは望月さんにそれだけを言うと、見送ってくださる彼を置いていつものタワーホテルへタクシーを向かわせたのです。

翌朝。まだバスローブだけを纏っているわたくしに、シンプルな黒のドレスとランジェリーの一式を揃えて持って来てくださったのは望月さんでした。
二日酔いだったのかもしれません。
まだ少し眠りたい・・・とおっしゃる美貴さんを置いて、わたくしは望月さんにセルシオで送っていただきました。
もちろん、自宅の前に望月さんのお部屋に寄り道いたしましたけれど♪

お二人との夜のことは、また機会がございましたらお話いたしましょう。
 (もちろん、知りたいっていうリクエストがございましたら・・・ですが(笑))
クリスマス・イヴ・イヴの物語は、ここまでです。
みなさまも素敵なクリスマスの思い出ができましたでしょうか。